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高尾山とムササビカフェ食堂
正体は
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「えへへ、ちょっと早かったかな~」
そう言って照れたように頭をぽりぽりと掻いたムササビは……ってちょっと待ってくださいよ。これは一体どういうことなのだろうか。だって……。
「ム、ムササビがーーーーーー!! いる~!」
わたしは、大声を上げて叫んでしまった。だって、目の前で頭をぽりぽり搔いている生き物はリスやモモンガを大きくしたようなムササビだったのだから。
「ん? 真歌ちゃんそんな大声を出してどうしたの?」
ムササビは首を横に傾げきょとんとしている。なんかめちゃくちゃ可愛らしい姿ではないか。なんて、キュンとしている場合ではないよ。
「あ、あ、あなたはムササビちゃんなの?」
「うん、そうだよ」と人間の女の子の声で即答されてしまった。
「人間の女の子じゃなくてムササビだったの?」
そんなバカなことがあるなんて信じられないけれど、目の前にいる動物はもふもふなムササビの姿をしているのだから仕方がない。
これが現実だと受け止めるしかないようだ。
「うふふ、ムササビの姿も可愛らしいでしょう?」
なんて言って照れたようにムササビは笑った。動物なのに表情豊かだ。
「ムササビちゃんは人間の姿に化けていたの?」
「ちょっと、それじゃあ化けムササビみたいじゃな~い」
そう言ってムササビはもふもふなほっぺたをぷくっと膨らませた。
「だが、本当のことだよな」
高男さんはククッと可笑しそうに笑いぷくっとほっぺたを膨らませているムササビの頭を優しく撫でた。
わたしは、ククッと笑う高男さんとぷくっと膨れながらも怒っているわけではなさそうなムササビのやり取りをぼーっと眺めた。
不思議なカフェ食堂に来てしまったというのにわたしの心は和みぽわっと温かくなっている。
「あの、このカフェ食堂は二人でやっているんですか?」
わたしの問いかけに高男さんとムササビはほぼ同時にこちらに振り向き、「そうですよ」と高男さんが答え、「でも、時々お友達がお手伝いに来てくれるよね~」とムササビが言った。
「そうなんですね」
お客さんもそんなに多くなさそうだし二人で切り盛りしていけそうだよねと思った。
「でも、真歌ちゃんがわたし達のカフェ食堂を見つけてくれたことは意味があるのかもしれないね」
「うん、たしかに。このカフェ食堂を見つけてくれた人は少ないからね」
ムササビと高男さんは顔を見合わせ頷き合っている。
「ここは高尾山で山登りのお客さんが大勢来る場所だと思うんですけど、そんなに閑古鳥が鳴いているんですか?」
わたしは大きな窓から見える自然と大勢の登山者が行き交う様子を眺めながら尋ねた。
「う~ん、視える人が少ないからね」
「そうなんだよな……」
ムササビと高男さんは困ったように言った。
「見える人?」
首を傾げるわたしにムササビが「このカフェ食堂は普通の人間はなかなか視ることができないみたいなんだよね……」と言った。
これは、なんだか雲行きが怪しい。
「まあ、ゆったりゆっくりと寛いでもらうのには丁度いいかもしれないですけどね」
「そ、そうですか……なるほど」
わたしは納得しきれていないけれどこのカフェ食堂はたしかに居心地がいいからねと思った。
「真歌さんは何か悩みでもあるのでしょうかね?」
高男さんの海のように澄んだ目がわたしをじっと見ている。この目に見つめられると何でも話してしまいそうになる。
「悩みと言うか派遣先が倒産して失業してしまいました」
「倒産で失業ですか……それは困ってしまいますね」
高男さんは気の毒そうに眉を寄せた。
「はい、まさかの倒産で失業したのでどうしたらいいのか状態です」
わたしは、藤本さんからの電話を思い出ししょぼんとした。もう思い出すだけで泥沼に突き落とされようにズーンと気持ちが沈む。
「だったらここで働けばいいじゃな~い」
ムササビがにぱにぱと笑い言った。
「えっ!? ここで働く!」
「おっ! ここで働いてもらう」
わたしと高男さんの声が揃う。
「うん、そうだよ。このカフェ食堂お客さん少ないけど店員も少ないもん」
ムササビはふふんと笑った。
「それもそうだね。どうです、真歌さんこのカフェ食堂で働いてみませんか?」
高男さんは納得したように手をポンと打つ。
「えっ! この妖しげなカフェ食堂で! あ、いえこのカフェ食堂で働かせてもらえるんですか?」
わたしは高男さんとムササビの顔を交互に見る。
「はい、真歌さんが良ければ」
「真歌ちゃん一緒に働こうよ~」
高男さんとムササビは両手を大きく広げた。わっ! ムササビの指はよく見ると四本だ。そうだ、高尾の図鑑でムササビの前足は四本だと書いてあったとそんなことをぼんやりと思い出した。
そう言って照れたように頭をぽりぽりと掻いたムササビは……ってちょっと待ってくださいよ。これは一体どういうことなのだろうか。だって……。
「ム、ムササビがーーーーーー!! いる~!」
わたしは、大声を上げて叫んでしまった。だって、目の前で頭をぽりぽり搔いている生き物はリスやモモンガを大きくしたようなムササビだったのだから。
「ん? 真歌ちゃんそんな大声を出してどうしたの?」
ムササビは首を横に傾げきょとんとしている。なんかめちゃくちゃ可愛らしい姿ではないか。なんて、キュンとしている場合ではないよ。
「あ、あ、あなたはムササビちゃんなの?」
「うん、そうだよ」と人間の女の子の声で即答されてしまった。
「人間の女の子じゃなくてムササビだったの?」
そんなバカなことがあるなんて信じられないけれど、目の前にいる動物はもふもふなムササビの姿をしているのだから仕方がない。
これが現実だと受け止めるしかないようだ。
「うふふ、ムササビの姿も可愛らしいでしょう?」
なんて言って照れたようにムササビは笑った。動物なのに表情豊かだ。
「ムササビちゃんは人間の姿に化けていたの?」
「ちょっと、それじゃあ化けムササビみたいじゃな~い」
そう言ってムササビはもふもふなほっぺたをぷくっと膨らませた。
「だが、本当のことだよな」
高男さんはククッと可笑しそうに笑いぷくっとほっぺたを膨らませているムササビの頭を優しく撫でた。
わたしは、ククッと笑う高男さんとぷくっと膨れながらも怒っているわけではなさそうなムササビのやり取りをぼーっと眺めた。
不思議なカフェ食堂に来てしまったというのにわたしの心は和みぽわっと温かくなっている。
「あの、このカフェ食堂は二人でやっているんですか?」
わたしの問いかけに高男さんとムササビはほぼ同時にこちらに振り向き、「そうですよ」と高男さんが答え、「でも、時々お友達がお手伝いに来てくれるよね~」とムササビが言った。
「そうなんですね」
お客さんもそんなに多くなさそうだし二人で切り盛りしていけそうだよねと思った。
「でも、真歌ちゃんがわたし達のカフェ食堂を見つけてくれたことは意味があるのかもしれないね」
「うん、たしかに。このカフェ食堂を見つけてくれた人は少ないからね」
ムササビと高男さんは顔を見合わせ頷き合っている。
「ここは高尾山で山登りのお客さんが大勢来る場所だと思うんですけど、そんなに閑古鳥が鳴いているんですか?」
わたしは大きな窓から見える自然と大勢の登山者が行き交う様子を眺めながら尋ねた。
「う~ん、視える人が少ないからね」
「そうなんだよな……」
ムササビと高男さんは困ったように言った。
「見える人?」
首を傾げるわたしにムササビが「このカフェ食堂は普通の人間はなかなか視ることができないみたいなんだよね……」と言った。
これは、なんだか雲行きが怪しい。
「まあ、ゆったりゆっくりと寛いでもらうのには丁度いいかもしれないですけどね」
「そ、そうですか……なるほど」
わたしは納得しきれていないけれどこのカフェ食堂はたしかに居心地がいいからねと思った。
「真歌さんは何か悩みでもあるのでしょうかね?」
高男さんの海のように澄んだ目がわたしをじっと見ている。この目に見つめられると何でも話してしまいそうになる。
「悩みと言うか派遣先が倒産して失業してしまいました」
「倒産で失業ですか……それは困ってしまいますね」
高男さんは気の毒そうに眉を寄せた。
「はい、まさかの倒産で失業したのでどうしたらいいのか状態です」
わたしは、藤本さんからの電話を思い出ししょぼんとした。もう思い出すだけで泥沼に突き落とされようにズーンと気持ちが沈む。
「だったらここで働けばいいじゃな~い」
ムササビがにぱにぱと笑い言った。
「えっ!? ここで働く!」
「おっ! ここで働いてもらう」
わたしと高男さんの声が揃う。
「うん、そうだよ。このカフェ食堂お客さん少ないけど店員も少ないもん」
ムササビはふふんと笑った。
「それもそうだね。どうです、真歌さんこのカフェ食堂で働いてみませんか?」
高男さんは納得したように手をポンと打つ。
「えっ! この妖しげなカフェ食堂で! あ、いえこのカフェ食堂で働かせてもらえるんですか?」
わたしは高男さんとムササビの顔を交互に見る。
「はい、真歌さんが良ければ」
「真歌ちゃん一緒に働こうよ~」
高男さんとムササビは両手を大きく広げた。わっ! ムササビの指はよく見ると四本だ。そうだ、高尾の図鑑でムササビの前足は四本だと書いてあったとそんなことをぼんやりと思い出した。
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