高尾山で立ち寄ったカフェにはつくも神のぬいぐるみとムササビやもふもふがいました

なかじまあゆこ

文字の大きさ
上 下
4 / 198
高尾山とムササビカフェ食堂

正体は

しおりを挟む
「えへへ、ちょっと早かったかな~」

  そう言って照れたように頭をぽりぽりと掻いたムササビは……ってちょっと待ってくださいよ。これは一体どういうことなのだろうか。だって……。

「ム、ムササビがーーーーーー!!  いる~!」

  わたしは、大声を上げて叫んでしまった。だって、目の前で頭をぽりぽり搔いている生き物はリスやモモンガを大きくしたようなムササビだったのだから。

「ん?  真歌ちゃんそんな大声を出してどうしたの?」

  ムササビは首を横に傾げきょとんとしている。なんかめちゃくちゃ可愛らしい姿ではないか。なんて、キュンとしている場合ではないよ。

「あ、あ、あなたはムササビちゃんなの?」
「うん、そうだよ」と人間の女の子の声で即答されてしまった。

「人間の女の子じゃなくてムササビだったの?」

  そんなバカなことがあるなんて信じられないけれど、目の前にいる動物はもふもふなムササビの姿をしているのだから仕方がない。

  これが現実だと受け止めるしかないようだ。

「うふふ、ムササビの姿も可愛らしいでしょう?」

  なんて言って照れたようにムササビは笑った。動物なのに表情豊かだ。

「ムササビちゃんは人間の姿に化けていたの?」

「ちょっと、それじゃあ化けムササビみたいじゃな~い」

  そう言ってムササビはもふもふなほっぺたをぷくっと膨らませた。

「だが、本当のことだよな」

  高男さんはククッと可笑しそうに笑いぷくっとほっぺたを膨らませているムササビの頭を優しく撫でた。


  わたしは、ククッと笑う高男さんとぷくっと膨れながらも怒っているわけではなさそうなムササビのやり取りをぼーっと眺めた。

  不思議なカフェ食堂に来てしまったというのにわたしの心は和みぽわっと温かくなっている。

「あの、このカフェ食堂は二人でやっているんですか?」

  わたしの問いかけに高男さんとムササビはほぼ同時にこちらに振り向き、「そうですよ」と高男さんが答え、「でも、時々お友達がお手伝いに来てくれるよね~」とムササビが言った。

「そうなんですね」

  お客さんもそんなに多くなさそうだし二人で切り盛りしていけそうだよねと思った。

「でも、真歌ちゃんがわたし達のカフェ食堂を見つけてくれたことは意味があるのかもしれないね」

「うん、たしかに。このカフェ食堂を見つけてくれた人は少ないからね」

  ムササビと高男さんは顔を見合わせ頷き合っている。

「ここは高尾山で山登りのお客さんが大勢来る場所だと思うんですけど、そんなに閑古鳥が鳴いているんですか?」

  わたしは大きな窓から見える自然と大勢の登山者が行き交う様子を眺めながら尋ねた。

「う~ん、視える人が少ないからね」
「そうなんだよな……」

  ムササビと高男さんは困ったように言った。

「見える人?」

  首を傾げるわたしにムササビが「このカフェ食堂は普通の人間はなかなか視ることができないみたいなんだよね……」と言った。

  これは、なんだか雲行きが怪しい。


「まあ、ゆったりゆっくりと寛いでもらうのには丁度いいかもしれないですけどね」

「そ、そうですか……なるほど」

  わたしは納得しきれていないけれどこのカフェ食堂はたしかに居心地がいいからねと思った。

「真歌さんは何か悩みでもあるのでしょうかね?」

  高男さんの海のように澄んだ目がわたしをじっと見ている。この目に見つめられると何でも話してしまいそうになる。

「悩みと言うか派遣先が倒産して失業してしまいました」

「倒産で失業ですか……それは困ってしまいますね」

  高男さんは気の毒そうに眉を寄せた。

「はい、まさかの倒産で失業したのでどうしたらいいのか状態です」

  わたしは、藤本さんからの電話を思い出ししょぼんとした。もう思い出すだけで泥沼に突き落とされようにズーンと気持ちが沈む。

「だったらここで働けばいいじゃな~い」

  ムササビがにぱにぱと笑い言った。

「えっ!?  ここで働く!」
「おっ!  ここで働いてもらう」

  わたしと高男さんの声が揃う。

「うん、そうだよ。このカフェ食堂お客さん少ないけど店員も少ないもん」

  ムササビはふふんと笑った。

「それもそうだね。どうです、真歌さんこのカフェ食堂で働いてみませんか?」

  高男さんは納得したように手をポンと打つ。

「えっ!  この妖しげなカフェ食堂で!  あ、いえこのカフェ食堂で働かせてもらえるんですか?」

  わたしは高男さんとムササビの顔を交互に見る。

「はい、真歌さんが良ければ」
「真歌ちゃん一緒に働こうよ~」

  高男さんとムササビは両手を大きく広げた。わっ!  ムササビの指はよく見ると四本だ。そうだ、高尾の図鑑でムササビの前足は四本だと書いてあったとそんなことをぼんやりと思い出した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

あやかし坂のお届けものやさん

石河 翠
キャラ文芸
会社の人事異動により、実家のある地元へ転勤が決まった主人公。 実家から通えば家賃補助は必要ないだろうと言われたが、今さら実家暮らしは無理。仕方なく、かつて祖母が住んでいた空き家に住むことに。 ところがその空き家に住むには、「お届けものやさん」をすることに同意しなくてはならないらしい。 坂の町だからこその助け合いかと思った主人公は、何も考えずに承諾するが、お願いされるお届けものとやらはどうにも変わったものばかり。 時々道ですれ違う、宅配便のお兄さんもちょっと変わっていて……。 坂の上の町で繰り広げられる少し不思議な恋物語。 表紙画像は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID28425604)をお借りしています。

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...