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5 静香と三毛猫
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しおりを挟む翌日、五年一組の教室の引き戸を開けると静香のツインテールが目に入ってきた。
今日のわたしは三つ編みだから被ってないとほっとする。けれど、静香のツインテールは三毛猫のゴムで結わえられていた。
ミケたんの三毛猫姿バージョンと似ていてちょっと不愉快だ。
静香も三毛猫が好きなんだろうな? そんなことを考えていると静香が振り返った。
「あら、ことりちゃん、おはよう」
静香は今日も満開の薔薇の花のような美しい微笑みを浮かべわたしの席の前に立ちわたしを見下ろす。
艶々サラサラのツインテールの髪が揺れている。
「ことりちゃん今日は三つ編みなんだね。ツインテールにしなかったんだ~静香の真似をするかと思った~」
なんて言いながらツインテールに結わえた三毛猫のゴムに手を触れにっこりと微笑む。
馬鹿らしいと思いわたしは返事をしないでランドセルから筆記用具を取り出す。
すると、静香は、「ねえ、ことりちゃん聞いてるの?」と言ってわたしの机を両手でバンバン叩く。
ああ、ワンパターンだ。この前と同じだよ。
わたしは「ワンパターン」と言って三つ編みをさっとほどいた。ほどく必要はないけれどね。
学校からの帰り道。
結太が五年一組で起こったわたしと静香の話をした。
「それでさ、琴家の顔めちゃくちゃ笑えたんだよ」と結太がお腹を抱えて笑った。
「へっ!」と美紀香ちゃん。
「赤鬼みたいな顔になったんだよ」
美紀香ちゃんは目を丸くしている。
「ことりが三つ編みをほどいた時の琴家の表情を美紀香にも見せてやりたかったよ。なっ、ことり」
結太が指で両目の目尻を引っ張り上げ静香の顔真似をし、笑いながらわたしの顔を見て話を振る。
「あはは、なんとも言えない表情だったけどね。なんかお酢を飲んでしまったような顔だったな」
「そうそうそんな感じだったよな。そのあと火山がドッカーンと噴火したみたいに真っ赤になって激怒だよな」
結太はお腹を抱えて涙まで流し笑っているのでほんのちょっぴりだけ静香が可哀想に思えてきた。
「静香の顔可笑しかったけどちょっと言い過ぎかも」
「えっ! あんだけ言われてことりお前ってお人好しだよな。だからつけこまれ意地悪されるんだよ」
結太がふぅーと溜め息をつき言った。
「じゃあさ、結太が静香にビシッと言ってあげたらいいんじゃないの?」
美紀香ちゃんがニヤリと笑った。
「へっ? どうして俺が言わなきゃなんねえんだよ」
「だって、ことりちゃんのこと心配してるし静香むかつくんでしょう?」
「まあ、それはそうだけど……」
「だったらビシッと言ってあげたら~」
「だって、琴家アイツ怖いぞ。何されるか知れたもんじゃないもんな」
結太はブルブルと震えてみせた。
「えっ! そんなに静香が怖いの?」
「だって、琴家のバックに女子軍団もついているんだぜ。誰だって怖いと思うよ」
「あはは、女子軍団って静香ちゃん女ボスみたいだね」
「琴家は猿や猫のボスより怖いかもだよ」
結太と美紀香ちゃんがそんな話をしていたその時、
「今、わたしの噂話をしなかった」と声が聞こえてきたかと思うと静香とその取り巻きの女子がわたし達の横を通った。
「あ、いや気のせいじゃないか?」
「ふ~ん、そうかな? わたしの名前が聞こえてきたような気がするんだけどね」
静香はそれこそ鬼のような顔でわたし達を睨んだ。やっぱり結太の言うように赤鬼みたいだよ。
「知らないよ」とわたし達はほぼ同時に答えた。
「あっそ、怪しいな。まあいっか。じゃあね、ことりちゃんもうわたしの真似なんてしないでよね」
静香はそう言ってスタスタと歩き去った。その後ろを静香の取り巻きの女子数人が追いかける。
そして、取り巻きの女子の一人が振り返り「静香ちゃんの真似しないでね」と言ってニヤニヤ笑った。
「あ、静香ちゃん待って~」 と静香を追いかける女子の髪の毛は三毛猫のゴムでポニーテールに結わえられていた。
「誰がするか~!」とわたしは叫んだ。
真似をしているのは自分じゃないのと思ったけれどケンカになると面倒くさいので黙っていよう。
「アホらしい子達だね」
美紀香ちゃんがツインテールを揺らし颯爽と歩く静香とその取り巻きの女子達の後ろ姿を眺めながら呟いた。
「笑ってしまうくらいにね」
結太も溜め息をつきながら言った。
「だよね……」
わたし達はぼんやりと静香達女子軍団の後ろ姿を眺めた。
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