笑顔になれる沖縄料理が食べたくて

なかじまあゆこ

文字の大きさ
上 下
94 / 111

美川さんの笑顔

しおりを挟む
「愛可ちゃん、よしお君は、人に幸せな気持ちになってもらい笑顔になってもらえる仕事を成功させたいと言っていたのよ」

  それまで黙っていたおばさんが言った。

「それって、やっぱり美川さんらしいのかな?」

「うふふ、そうよ。本人は仏頂面なんだけどね。よしお君は本当は優しいのよ」

「確かに美川さん本人は仏頂面ですよね。だけど、みんなに元気になってもらいたいと思っているその気持ちは本物ですよね」

  きっと、美川さんの人に喜んでもらいたいなと思っているその気持ちに嘘はないだろうなと思う。根は優しい人なのだ。

「わたしが話した愛可ちゃんのことをよしお君は何度も聞いてきて、俺はその愛可ちゃんを見つけたいですよと言っていたのよ」

  そう言って笑うおばさんのその顔はキラキラと輝いていた。

  わたしとおばさんの出会いは美川さんへと繋がっていたんだね。人生は不思議な繋がりがありそして素晴らしいなと思った。


「あははっ、仏頂面は余計ですけどね」

「あ、美川さん、今、ちょっと笑いましたね」

「うふふ、よしお君の頬が緩んでいるわね」

  わたしと、おばさんは顔を見合わせ笑い合った。

「あ、俺としたことが笑ってしまったじゃないですか」

  美川さんはそう言って頬に手を当てた。

「美川さん、笑顔になりたいんじゃないですか?」

「そうよ、人に笑顔になってもらいたいよしお君が笑わなくてどうするのよ」

「あはは、そうでしたね。この何十年ご飯を食べている時しか笑っていなかったので……ちょっと焦ってしまいました」

  美川さんは、そう言って照れたように頭を掻き微かな笑みを浮かべた。普段滅多に笑わない美川さんのその笑みはとても綺麗だった。

「あ、美川さんが笑っているよ~」

  きらりちゃんが美川さんを指差し言った。

「ちょっときらりちゃん、そんな珍しいものを見るみたいに指を差すなよ」

  美川さんはいつもの無表情に戻り言った。

「だって、本当のことだもんね。あ、でも美川さんは笑っている方が格好いいよ~。あ、おじさんだけどね」

「それはありがとう。っておじさんかよ。俺はまだ、二十代なんだぜ」

「充分おじさんだよ」

  なんて会話を続けるきらりちゃんと美川さんを見ていると微笑ましい気持ちになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

降霊バーで、いつもの一杯を。

及川 輝新
ライト文芸
主人公の輪立杏子(わだちきょうこ)は仕事を辞めたその日、自宅への帰り道にあるバー・『Re:union』に立ち寄った。 お酒の入った勢いのままに、亡くなった父への複雑な想いをマスターに語る杏子。 話を聞き終えたマスターの葬馬(そうま)は、杏子にこんな提案をする。 「僕の降霊術で、お父様と一緒にお酒を飲みませんか?」 葬馬は、亡くなった人物が好きだったお酒を飲むと、その魂を一時的に体に宿すことができる降霊術の使い手だったのだ。

会社をクビになった私。郷土料理屋に就職してみたら、イケメン店主とバイトすることになりました。しかもその彼はーー

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ライト文芸
主人公の佐田結衣は、おっちょこちょいな元OL。とある事情で就活をしていたが、大失敗。 どん底の気持ちで上野御徒町を歩いていたとき、なんとなく懐かしい雰囲気をした郷土料理屋を見つける。 もともと、飲食店で働く夢のあった結衣。 お店で起きたひょんな事件から、郷土料理でバイトをすることになってーー。 日本の郷土料理に特化したライトミステリー! イケメン、でもヘンテコな探偵とともに謎解きはいかが? 恋愛要素もたっぷりです。 10万字程度完結。すでに書き上げています。

一会のためによきことを

平蕾知初雪
ライト文芸
――8月、僕はずっと大好きだった〇〇ちゃんのお葬式に参列しました。 初恋の相手「〇〇ちゃん」が亡くなってからの約1年を書き連ねました。〇〇ちゃんにまつわる思い出と、最近知ったこと、もやもやすること、そして遺された僕・かめぱんと〇〇ちゃんが大好きだった人々のその後など。 〇〇ちゃんの死をきっかけに変わった人間関係、今〇〇ちゃんに想うこと、そして大切な人の死にどう向き合うべきか迷いまくる様子まで、恥ずかしいことも情けないことも全部書いて残しました。 ※今作はエッセイブログ風フィクションとなります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

"わたし"が死んで、"私"が生まれた日。

青花美来
ライト文芸
目が覚めたら、病院のベッドの上だった。 大怪我を負っていた私は、その時全ての記憶を失っていた。 私はどうしてこんな怪我をしているのだろう。 私は一体、どんな人生を歩んできたのだろう。 忘れたままなんて、怖いから。 それがどんなに辛い記憶だったとしても、全てを思い出したい。 第5回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

処理中です...