笑顔になれる沖縄料理が食べたくて

なかじまあゆこ

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お母さんと座間味島の食堂

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  そんなお母さんのことをちょっと見直したけれど、わたしのことよりおばぁのことを思い出したのかなと考えるとちょっぴり悲しくなった。

「そうなんだね。この座間味島で働いてくれるなんて嬉しいことだよ。じゃあ、里可の働いている食堂に行こうかしらね。きらりちゃんも愛可ちゃんもそれでいいかな?」

「うん、もちろんOKだよ。きらりちゃんも良いよね?」

「おばぁの沖縄ちゃんぽん食べられないのはちょっと残念だけどわたしもOKだよ」

「では、里可の働く食堂へレッツゴーだね」

  おばぁは腕を高く上げた。

ーーー

  わたし達四人はオレンジ色に染まる夕陽が美しい座間味島の集落をぞろぞろと歩く。

「ふふっ、ちょっと楽しみだな」

「きらりちゃんどうしてゴーヤを持っているのかな?」

「えっ!?  ゴーヤ?  あ、わたしゴーヤ持ってた~」

  きらりちゃんは握りしめていたゴーヤに気がつき慌てている。

「きらりちゃんってばゴーヤ持ってたことに気づいていなかったの?」

  わたしがクスクス笑って聞くと、

「全然気づいてなかったよ。まあ、いいや~ゴーヤも一緒に食堂に行くのさ」

  なんて、わたし達が笑い合っていると、

「着いたわよ」と言って前を歩くお母さんが足を止めた。

  ここが、お母さんの働いている食堂なんだ。


  その食堂は二階建ての民家のような建物に『森浜食堂《もりはましょくどう》』と書かれた看板が掲げられており、それから同じく『森浜食堂』と書かれた暖簾が掛けられていた。

「ここなのね、まだ一度も来たことがなかったわ。あ、もしかしたら一度来たかもしれないわね」とおばぁは言った。

「わ~い!  食堂だ~楽しみ」

  きらりちゃんはわたしの隣でピョンピョンと飛び跳ねている。もちろん片手にゴーヤを持っているのだから笑ってしまう。

  わたしはクスクスと笑いながらお母さんの働く食堂を眺めた。じっと眺めているとなんて表現したら良いか分からない気持ちがわたしの心の中にじわりと漂ってきた。

「さあ、入りましょう」

  お母さんが食堂のドアをガラガラと開けた。



  わたし達はお母さんに続き中に入った。民家を改装したような店内だった。お座敷席が三つに木製のテーブル席が四つある。

「こんばんは、森浜さん」

  お母さんは店の奥に声をかけた。

「あら、幸川さんにご家族の方ですね。いらっしゃいませ~」

  店の奥から六十代くらいのおばさんが出てきた。

「こんばんは、お邪魔します。幸川里可の母です」

  おばぁが挨拶をした。

  わたしも慌てて「こんばんは、母がお世話になっています」と挨拶をした。

「こんばんは~」

  きらりちゃんも挨拶をした。

「今日は幸川さんがこの食堂で働いてくれて一か月目なので歓迎会変わりにご馳走しようかなと思っていたんですよ」

  おばさんはそう言って笑った。そのおばさんの笑顔は人を和ませるような柔らかい雰囲気が漂っていた。

「ありがとうございます。良かったわね、里可」

  おばぁがお母さんの肩をぽんぽんと叩いた。

「まあね……森浜さんありがとうございます」

「さあ、皆さん、料理を用意しますので座ってくださいね」

  おばさんはそう言って厨房に向かった。


  わたし達四人はお座敷に腰を下ろした。

「里可、良い食堂で働けて良かったね」

  おばぁが店内を見回しそして、お母さんの顔を見て言った。

「そうね、良かったわよ」

  わたしは二人の話に耳を傾けながら食堂のおばさんの調理をする姿をぼんやりと眺めた。そのおばさんを眺めているとなんだか不思議な気持ちになった。

「ねえ、愛可」

  わたしがぼんやりしているときらりちゃんが声をかけてきた。

「うん?  きらりちゃん何?」

「ご飯が楽しみだね。何が出てくるかな? 
あ、またゴーヤチャンプルーだったらどうする?」

  きらりちゃんはテーブルの上に置いたゴーヤを触りながら言った。

「それはちょっとね。まあ、まだゴーヤチャンプルー食べられるけどね」

  わたしはそう答えながらゴーヤがてんこ盛りに盛られたゴーヤーチャンプルーを思い浮かべ笑ってしまった。
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