笑顔になれる沖縄料理が食べたくて

なかじまあゆこ

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お母さんへの電話

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  わたしは、ドキドキしながらスマホを耳に強く押しつけた。

  スマホの呼び出し音が鳴る。

  ドキドキドキドキして自分の心臓の音が聞こえてきそうだ。お母さんが電話に出ませんようになんて思わず願ってしまいそうになる。

  スマホを持つ手に力が入る。ギュギュギュとスマホを強く握る。

  もう電話に出ないから切ろうかなと思ったその時、

「もしもし」と電話の向こう側から懐かしい声が聞こえてきた。

  この声は……。そう、お母さんだ。

『もしもし、幸川ですけどどちら様ですか?』

  お母さんのちょっと甲高い声が呼びかけてくる。

「あ、えっと……」

  どうしよう。言葉が出てこない。わたしは、耳に当てたスマホを強く握った。

『えっ!?  もしかして愛可なの?』

  お母さんはわたしの声を覚えていた……。忘れられていなかった。

「あ、うん、愛可だよ。お母さん元気にしていた?」

『びっくりした。愛可が突然電話をしてくるなんて。元気だよ。愛可も元気かな?』

「うん、元気だよ」

  そう答え懐かしさをじわじわと感じた。


  しばらくの間沈黙が続いた。わたしもお母さんもじーっと黙っている。

  お母さんは今何を考えているのだろうか?  電話の向こうのお母さんの息遣いに耳を澄ます。微かにお母さんの呼吸をする音が聞こえてきた。

  スマホをギュギュギュと握りしめ黙っているわたしの肩をおばぁがポンポンと優しく叩いた。

  わたしは振り向きおばぁの顔を見た。おばぁの目は頑張ってとわたしを応援してくれているそんな優しくて力強い目をしていた。

  勇気を出さなくては、お母さんと会って話をしてみる必要はきっとあるはずなのだから。

  そんなことを考えながらスマホをギュギュギュと握りしめていると、ゴーヤをギュギュギュと握りしめているきらりちゃんがわたしの顔を覗き込んだ。

  そんなきらりちゃんの姿が可笑しくて思わず笑いそうになった。

  おばぁもきらりちゃんもわたしのことを応援してくれているのだ。わたしは、スマホを強く握り、そして。

「お母さん」と言った。

   すると、お母さんは。


「……愛可どうして今頃」

「あ、えっと……その」

  今頃と言うのは今頃になって連絡してきてもと言う意味なのだろうか。

  電話の向こうのお母さんはじっと黙っていて何も言わない。わたしの返事を待っているのかな。

「ずっと、お母さんと会っていなかったけど気になっていて久しぶりに会いたいなと思って電話をしたんだよ」

  わたしは思いきって言った。

「……そうだったんだね」

「うん、そうだよ」

  お母さんはどう思っていたのかなと気になる。幼いわたしを家に置いたままいつも出かけて中々帰って来なかったお母さん。

  幼い頃のわたしはそんなお母さんのことが嫌いでだけど、好きだった。

  大人になるにつれてだんだんお母さんのことが好きではなくなったけれど、それでもお母さんはやっぱりわたしのお母さんなのだから嫌いにはなれなかった。

「……わたしも愛可のことが気になっていたわよ」とお母さんは言った。

「ほ、本当に……」

  お母さんのその言葉がとても嬉しかった。わたし忘れられていなかった。そう思うと嬉しくてたまらなかった。


  お母さんは少し間を置き、「これでもわたしは愛可のお母さんだからね」と言った。

   その電話越しから聞こえてくる言葉が嬉しくてたまらなかった。

「……お母さん」

  なんて言ったら良いのか続く言葉が出てこない。また、わたしとお母さんは二人してじっと黙ってしまった。

「わたし、今更だけど愛可に会いたいな。今、どこにいるの?」

  お母さんがわたしに会いたいと言ってくれた。そんな言葉が聞けるなんて思っていなくてまるで夢を見ているみたいだ。

「今、おばぁの家に来ているんだよ」

「えっ!  お母さんの家に居るの!」

「うん、おばぁの家でゴーヤチャンプルーとマンゴーを食べたよ」

  わたしはおばぁの顔をちらりと見て答えた。おばぁはニコニコと笑っている。

「……そうなんだね」

「うん。おばぁの家に久しぶりに来たんだよ」

「そっか……」

  お母さんはそう言って沈黙した。おばぁには会いたくないのだろうか?

「お母さんは今どこに住んでいるの?」
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