笑顔になれる沖縄料理が食べたくて

なかじまあゆこ

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おばぁと栗さん

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  店内に入ってきたのは彫りが深くてはっきりした顔立ちの沖縄人らしい三十代位の女性だった。

「あ、栗ちゃんか」

 「おばぁ、なんだか楽しそうだね」

「うん、まあね。今日は元気で優しいお客さんが来てくれたからね。栗ちゃんもちんすこう食べるかい?」

「あ、うん。じゃあわたしも食べようかな」

  女性こと栗さんは店の隅に立てかけてある折りたたみ椅子をこちらに持ってきて広げ腰を下ろした。

「あ、こんにちは。おばぁの孫の城浜栗しろはまくりです」

  栗さんはわたし達の顔を見て軽く頭を下げた。

「こんにちは。幸川愛可です」

「どうも。美川よしおです」

「斎川きらりで~す」

  わたし達も挨拶をした。

  おばぁは店の奥に引っ込みお茶の準備をしているようだ。

「お姉さんの名前面白いね。栗だって~なんだか食べたくなる名前だね」

  きらりちゃんはクスクスと笑いながら言った。

「ちょっと、きらりちゃん!  城浜さんに失礼だよ」

  わたしがきらりちゃんをギロリと睨みながら肩をポンと叩いたのだけど、

「だって、本当のことだもん」

  なんて言ってニマニマ笑っているのだからきらりちゃんには困ってしまう。

「あははっ、良いですよ。栗ちゃんって名前栗みたいだねとよく言われますからね」

  城浜さんはにこやかにな笑みを浮かべているから良かったけれど……。

「きらりちゃんがすみません」とわたしは代わりに謝った。わたしはきらりちゃんのお母さんじゃないんだからね。

「気にしないでください。大丈夫ですからね。それはそうと、家のおばぁを元気にしてくれてありがとうございます。幸川さんのお話は美川さんから聞いていますよ」

「えっ?  美川さんから?」

  それって一体どういうことなのだろうか?

  美川さんに視線を向けると澄ました顔でさんぴん茶を飲んでいるのだった。

「はい。美川さんから聞きました。幸川さんはご飯を笑顔で食べる才能があると」

  栗さんはうふふと笑いながらわたしの顔を見た。

「あ、えっと……そ、そんなご飯を笑顔で食べる才能だなんて」

  これは喜んで良いものかなと考えてしまう。わたしは頭をポリポリと掻いた。

「うふふ、わたしも幸川さんのその最高の笑顔を見てみたいですよ」

「あ、とんでもないですよ!  わたしはただご飯を食べると幸せな気持ちになるだけなんですよ」

  栗さんは楽しそうに笑っている。わたしはちょっと困ってしまい美川さんをギロリと睨んだ。けれど、美川さんは今も澄ました顔でさんぴん茶を飲んでいる。

  美川さん、ふにゃふにゃーな顔にならないのですか?  わたしが美川さんをギロリと睨んでいると、

「お待たせ~さんぴん茶とちんすこうだよ」

  おばぁが湯気の立っている温かいさんぴん茶とちんすこうを朱塗りのお盆に載せ店の奥から戻ってきた。
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