34 / 111
きらりちゃんの気持ち
しおりを挟む
わたしが黙っているときらりちゃんが、
「愛可も寂しかったんだね」と言ってわたしの顔をじっと眺めた。
「うん、寂しかったよ。きらりちゃんも寂しいのかな?」
聞いたらまたきらりちゃんはうるさいよと怒るかもしれないけれど聞かずにはいられなかった。
だって、愛可も寂しかったのと聞いてきたのだから。
「うん、お母さんはいるけど寂しいよ……」
きらりちゃんは豆腐チャンプルーを口に運びながら言った。
そして。
「おばぁの豆腐チャンプルーは美味しいな。お母さんの豆腐チャンプルーも本当は美味しいけどそれはわたしの為に作ってくれているんじゃないもんね」
きらりちゃんはそう言いながら豆腐チャンプルーをパクパクと食べた。
「きらりちゃんの為に作ってくれてないってどういう意味なのかな?」
「それは、お母さんはお客さんに喜んでもらう為に料理を作っているのであってわたしのことなんて二の次三の次なんだから」
そう言ってきらりちゃんはぷくりと膨れた。
わたしはきらりちゃんの言っている意味が何となくわかる気がした。
「そうなんだね。きらりちゃんも寂しかったんだね」
「うん。愛可は幸せそうにご飯を食べているからきっと、幸せな家庭で育ったお嬢様かと思っていたけど違ったんだね。愛可になら話してもいいかなと思えてきたよ」
きらりちゃんは小学生なのにどこか精神的に大人びているなと思った。
「わたしで良かったら話してね」
「うん。愛可もね。じゃあ、聞いてよ」
きらりちゃんは、かすかな笑みを浮かべ話し始めた。
「わたしのお母さんは食堂のことで頭がいっぱいなんだよ。いつもお客さんに美味しいって喜んでもらえる料理のことばかり考えているんだから」
「……そっか」
「うん、そうなんだよね。きらりちゃん、お客さんがわたしの料理を美味しいと言って食べてくれたのよとか、うふふ、新メニュー考えついたのよとかお母さんの話すことは食堂のことばかりで……わたしのことなんてどうでもいいみたいなんだから」
きらりちゃんはふぅーと溜め息をついた。
「……そうだったんだね。それはちょっと悲しいね。でもきっと、お母さんはきらりちゃんのことが大好きだからこそ嬉しかったことを話すのだと思うよ」
そう、きっと。斎川さんはわたしのお母さんとは違ってきらりちゃんのことを愛していると思う。
「そうなのかな?」
きらりちゃんはうーんと顎に手を当てて考える仕草を見せた。
「そうだよ、きっと。お母さんはきらりちゃんのことを大切な存在だと思っているはずなんだからね」
わたしはにっこりと微笑みを浮かべた。
「……だったらいいけど」
きらりちゃんはそう言いながらおばぁの豆腐チャンプルーを食べた。
そんなきらりちゃんを眺めていると田舎のおばぁの豆腐チャンプルーと幼き日のわたし自身の笑顔を思い出した。
「ねえ、きらりちゃん。お母さんの料理を笑顔で食べてあげたらいいと思うよ。そしたら喜んでくれるんじゃないかな?」
わたしの言葉にきらりちゃんは顔を上げて、「……考えてみる」と言った。
「ふふっ、笑顔でご飯を食べるか考えるんだ~」
「あ、ちょっと~愛可笑ったね。酷いよ」
きらりちゃんは拗ねたように口を尖らせた。その表情は小学生らしくてホッとした。そんなきらりちゃんを眺めていると微笑ましくなりクスッと笑うと、
「愛可~笑うな~」
なんて言ってきらりちゃんは頬をぷくりと膨らませた。うふふ。きらりちゃんってばなんだ可愛らしいじゃない。
「きらりちゃん可愛いね」
「ふざけるな~」
きらりちゃんはぷんぷん怒っているけれどもう一歩近づくことができたかなと思うとわたしは嬉しくなった。
この後、わたしときらりちゃんは豆腐チャンプルーを分け合って食べた。
「きらりちゃん、わたしに分けてくれてお腹空いちゃわない?」
「大丈夫だよ。お腹が空いたらお母さんにご飯を作ってもらうよ」
きらりちゃんはそう言って笑った。
「きらりちゃんが笑った。笑顔を一つゲットかも」
わたしは思わず声に出してしまった。
「うん? 愛可。笑顔を一つゲットって何かな?」
きらりちゃんは首を傾げそしてわたしをギロリと睨んだ。
「あ、えっと……何でもないよ。気にしないでね。きらりちゃんが笑ってくれたからわたし嬉しかったんだよ」
そう、この嬉しかった気持ちは嘘じゃない。きらりちゃんが笑ってくれたことは心から嬉しくてやったーと叫びたいくらいなのだから。
「ふーん、なんだか怪しげだけど今日は特別に許してあげるよ」
「わ~い、ありがとう。きらりちゃん」
わたしはにっこりと微笑みを浮かべた。
「ふん、特別なんだからね」
きらりちゃんは口を尖らしているけれど怒っているわけじゃないよね。
今日はきらりちゃんに一歩近づけた良い一日になった。どうかきらりちゃんが斎川さんと仲良くなれますように。
ーーーーー
「きらりちゃんが笑ってくれたんですね。それは一歩前進ですね」
「はい、きらりちゃんの笑顔をゲットしてきました。ところであの……美川さん」
「はい? どうしましたか?」
「質問したいのですが……」
「愛可さんどうぞ」
美川さんはニヤリと口の両端を上げた。
「どうして紫色の割烹着を着ているんですか?」
そうなのだ。わたしは仕事の結果報告をする為『幸せの運び屋』にやって来た。
ドアを開くと美川さんが紫色の割烹着姿で甘い香りとともにわたしを迎え入れてくれたのだった。
「あ、これですか?」
「はい、その紫色の割烹着です」
「それは仕事を頑張った愛可さんの為に腕によりをかけてサーターアンダギーを作ったからですよ。愛可さんってば美味しそうに食べているじゃないですか」
「はい、食べていますけど……なんだか紫色の割烹着が美川さんのユニフォームみたいだなと思って」
「まあユニフォームみたいなものかもですね」
なんて言って美川さんは笑うのだから可笑しくなる。
わたしは、うふふと笑いながら口の中に素朴な甘さがふわふわと広がるサーターアンダギーを食べて幸せな気持ちになった。
美川さんの紫色の割烹着とサーターアンダギー。それから田舎のおばあちゃんの豆腐チャンプルーにきらりちゃんの笑顔など小さな幸せに包まれた一日だった。
「愛可も寂しかったんだね」と言ってわたしの顔をじっと眺めた。
「うん、寂しかったよ。きらりちゃんも寂しいのかな?」
聞いたらまたきらりちゃんはうるさいよと怒るかもしれないけれど聞かずにはいられなかった。
だって、愛可も寂しかったのと聞いてきたのだから。
「うん、お母さんはいるけど寂しいよ……」
きらりちゃんは豆腐チャンプルーを口に運びながら言った。
そして。
「おばぁの豆腐チャンプルーは美味しいな。お母さんの豆腐チャンプルーも本当は美味しいけどそれはわたしの為に作ってくれているんじゃないもんね」
きらりちゃんはそう言いながら豆腐チャンプルーをパクパクと食べた。
「きらりちゃんの為に作ってくれてないってどういう意味なのかな?」
「それは、お母さんはお客さんに喜んでもらう為に料理を作っているのであってわたしのことなんて二の次三の次なんだから」
そう言ってきらりちゃんはぷくりと膨れた。
わたしはきらりちゃんの言っている意味が何となくわかる気がした。
「そうなんだね。きらりちゃんも寂しかったんだね」
「うん。愛可は幸せそうにご飯を食べているからきっと、幸せな家庭で育ったお嬢様かと思っていたけど違ったんだね。愛可になら話してもいいかなと思えてきたよ」
きらりちゃんは小学生なのにどこか精神的に大人びているなと思った。
「わたしで良かったら話してね」
「うん。愛可もね。じゃあ、聞いてよ」
きらりちゃんは、かすかな笑みを浮かべ話し始めた。
「わたしのお母さんは食堂のことで頭がいっぱいなんだよ。いつもお客さんに美味しいって喜んでもらえる料理のことばかり考えているんだから」
「……そっか」
「うん、そうなんだよね。きらりちゃん、お客さんがわたしの料理を美味しいと言って食べてくれたのよとか、うふふ、新メニュー考えついたのよとかお母さんの話すことは食堂のことばかりで……わたしのことなんてどうでもいいみたいなんだから」
きらりちゃんはふぅーと溜め息をついた。
「……そうだったんだね。それはちょっと悲しいね。でもきっと、お母さんはきらりちゃんのことが大好きだからこそ嬉しかったことを話すのだと思うよ」
そう、きっと。斎川さんはわたしのお母さんとは違ってきらりちゃんのことを愛していると思う。
「そうなのかな?」
きらりちゃんはうーんと顎に手を当てて考える仕草を見せた。
「そうだよ、きっと。お母さんはきらりちゃんのことを大切な存在だと思っているはずなんだからね」
わたしはにっこりと微笑みを浮かべた。
「……だったらいいけど」
きらりちゃんはそう言いながらおばぁの豆腐チャンプルーを食べた。
そんなきらりちゃんを眺めていると田舎のおばぁの豆腐チャンプルーと幼き日のわたし自身の笑顔を思い出した。
「ねえ、きらりちゃん。お母さんの料理を笑顔で食べてあげたらいいと思うよ。そしたら喜んでくれるんじゃないかな?」
わたしの言葉にきらりちゃんは顔を上げて、「……考えてみる」と言った。
「ふふっ、笑顔でご飯を食べるか考えるんだ~」
「あ、ちょっと~愛可笑ったね。酷いよ」
きらりちゃんは拗ねたように口を尖らせた。その表情は小学生らしくてホッとした。そんなきらりちゃんを眺めていると微笑ましくなりクスッと笑うと、
「愛可~笑うな~」
なんて言ってきらりちゃんは頬をぷくりと膨らませた。うふふ。きらりちゃんってばなんだ可愛らしいじゃない。
「きらりちゃん可愛いね」
「ふざけるな~」
きらりちゃんはぷんぷん怒っているけれどもう一歩近づくことができたかなと思うとわたしは嬉しくなった。
この後、わたしときらりちゃんは豆腐チャンプルーを分け合って食べた。
「きらりちゃん、わたしに分けてくれてお腹空いちゃわない?」
「大丈夫だよ。お腹が空いたらお母さんにご飯を作ってもらうよ」
きらりちゃんはそう言って笑った。
「きらりちゃんが笑った。笑顔を一つゲットかも」
わたしは思わず声に出してしまった。
「うん? 愛可。笑顔を一つゲットって何かな?」
きらりちゃんは首を傾げそしてわたしをギロリと睨んだ。
「あ、えっと……何でもないよ。気にしないでね。きらりちゃんが笑ってくれたからわたし嬉しかったんだよ」
そう、この嬉しかった気持ちは嘘じゃない。きらりちゃんが笑ってくれたことは心から嬉しくてやったーと叫びたいくらいなのだから。
「ふーん、なんだか怪しげだけど今日は特別に許してあげるよ」
「わ~い、ありがとう。きらりちゃん」
わたしはにっこりと微笑みを浮かべた。
「ふん、特別なんだからね」
きらりちゃんは口を尖らしているけれど怒っているわけじゃないよね。
今日はきらりちゃんに一歩近づけた良い一日になった。どうかきらりちゃんが斎川さんと仲良くなれますように。
ーーーーー
「きらりちゃんが笑ってくれたんですね。それは一歩前進ですね」
「はい、きらりちゃんの笑顔をゲットしてきました。ところであの……美川さん」
「はい? どうしましたか?」
「質問したいのですが……」
「愛可さんどうぞ」
美川さんはニヤリと口の両端を上げた。
「どうして紫色の割烹着を着ているんですか?」
そうなのだ。わたしは仕事の結果報告をする為『幸せの運び屋』にやって来た。
ドアを開くと美川さんが紫色の割烹着姿で甘い香りとともにわたしを迎え入れてくれたのだった。
「あ、これですか?」
「はい、その紫色の割烹着です」
「それは仕事を頑張った愛可さんの為に腕によりをかけてサーターアンダギーを作ったからですよ。愛可さんってば美味しそうに食べているじゃないですか」
「はい、食べていますけど……なんだか紫色の割烹着が美川さんのユニフォームみたいだなと思って」
「まあユニフォームみたいなものかもですね」
なんて言って美川さんは笑うのだから可笑しくなる。
わたしは、うふふと笑いながら口の中に素朴な甘さがふわふわと広がるサーターアンダギーを食べて幸せな気持ちになった。
美川さんの紫色の割烹着とサーターアンダギー。それから田舎のおばあちゃんの豆腐チャンプルーにきらりちゃんの笑顔など小さな幸せに包まれた一日だった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
パパー!紳士服売り場にいた家族の男性は夫だった…子供を抱きかかえて幸せそう…なら、こちらも幸せになりましょう
白崎アイド
大衆娯楽
夫のシャツを買いに紳士服売り場で買い物をしていた私。
ネクタイも揃えてあげようと売り場へと向かえば、仲良く買い物をする男女の姿があった。
微笑ましく思うその姿を見ていると、振り向いた男性は夫だった…
負けないで愛してる
1000
児童書・童話
主人公:まもるくん
母
やよい
幼い頃に母を亡くし、天涯孤独になったまもるは、母からもらった言葉を、今も胸に秘めている。
その思いに重なるやよいの「負けないで」に、まもるは……?
婚活のサラリーマン
NAOTA
ライト文芸
気がつけば36才になっていた私は、婚活を始めた。
アラフォーサラリーマンが、なかなかうまくいかない婚活に奔走する、少しだけハードボイルドなストーリー。
(この小説はカクヨム様、ノベルデイズ様にも投稿させていただいています。)
隣の古道具屋さん
雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。
幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。
そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。
修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。
百々五十六の小問集合
百々 五十六
ライト文芸
不定期に短編を上げるよ
ランキング頑張りたい!!!
作品内で、章分けが必要ないような作品は全て、ここに入れていきます。
毎日投稿頑張るのでぜひぜひ、いいね、しおり、お気に入り登録、よろしくお願いします。
魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は世界に1人のトリプルジョブに至る~
ぐうのすけ
ファンタジー
赤目達也(アカメタツヤ)は少女を育てる為に冒険者を辞めた。
そして時が流れ少女が高校の寮に住む事になり冒険者に復帰した。
30代になった達也は更なる力を手に入れておりバズり散らかす。
カクヨムで先行投稿中
タイトル名が少し違います。
魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は黒魔法と白魔法を覚え世界にただ1人のトリプルジョブに至る~
https://kakuyomu.jp/works/16818093076031328255
前略、こちら「東新町立花接骨院」です。
むぎ
ライト文芸
東京都板橋区東新町。
最寄り駅は「上板橋」、ちょっと頑張れば「ときわ台」。
都会ではないが、ど田舎でもない。
そんな街。
閑静というよりやや賑やかな住宅街にぽつり佇む一軒の接骨院。
さてさて、今日も診療開始の時間である。
アンダーワールド*冥界と下界~神・死神・人間・妖怪の戦が今始まる~
八雲翔
ライト文芸
【本編は完結。番外編が連載中です】
人柱により国を治めてきた人間界と、
そんな国のトップと戦う冥界の日常を描いています。
冥界もマルシェでお金を稼ぎ、
妖怪、幽霊作家とともに冥界で暮らす資金を集めています。
ただ働きで下界(人間界)の悪霊を退治し、
神殺しをする人間に天罰が下り始めた後半からの続きは、
番外編で少し触れていますのでお読みいただければと思います。
冥界、死神、人間、幽霊、妖怪………が蠢く世界。
物語の国は人々の負の感情から悪霊に覆われ、
冥界に所属する特例達は彼らの為に死んでもなお働いています。
地震による大災害や儀式など、
途中より少しキツイ内容が含まれますが、
それ以外は全体にほのぼのとした冥界スローライフです。
物語は一応完結していますが、
国民の感情問題の為、
この国がどう転ぶのかまでは描かれていません。
可愛いチビ妖怪が登場することで、
子供に振り回される大人達の姿も描いているので、
儀式などの表現も柔らかくしています。
第一部は主人公たちの紹介がメインです。
核心に触れた話は第二部からになります。
第八部で一つの物語の流れが終わり、
第九部から新たな戦いの物語になります。
ざまあでも貴族でも恋愛でもないので、
そういう物語が好きな方向きではありません。
皆さんの大切なお時間を少し頂戴して、
現代ファンタジーとして、
読んでいただけたら嬉しいです。
*この物語はフィクションです。
実在の人物や団体、地名などとは一切関係ありません。
八雲翔
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる