笑顔になれる沖縄料理が食べたくて

なかじまあゆこ

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きらりちゃん

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  すると、その女の子の目とわたしの目が合った。わたしはなんだか気まずくなり目を逸らそうとしたのだけど、鋭い視線で睨まれた。

「あら、きらりちゃんおかえりなさい」

  テーブルを布巾で拭いていた斎川さんがその女の子に声をかけた。

「……」

  だけどきらりちゃんと呼ばれた女の子は返事をしない。

「きらりちゃん帰って来たんだからただいまっていいなさいよ。手を洗ってうがいもするのよ」

「うるさいな!  きらりちゃんって呼ばないでよ」

  きらりちゃんはそう言ってわたしの前を通り過ぎようとしたのだけど、突然ピタリと立ち止まった。

  そして……。わたしの顔をちらりと見て、

「お姉さん、人の顔をじろじろ見ないでくれるかな?」

  なんて言ってまたまたわたしを睨む。ちょっと怖いよ。

「別に見てないよ……」

  どうして小学生の女の子にビクビクしなきゃならないのよと思いながらわたしは答えた。

「そっかなわたしがそこのドアを開けて中に入ったらお姉さんはわたしの顔をじろじろ見たと思うんだけどね」

  きらりちゃんはそう言って入口のドアを指差した。

「……わたしは何気なくドアの方を見たのよ。もしそう感じたのだったらごめんね」

  わたしは一応謝っておいた。

「ふーん、そうなんだね」

  きらりちゃんは納得いかないような顔で首を傾げた。大きな二重まぶたがくりっとして少しつり上がった猫みたいな目が可愛らしい女の子なんだけど機嫌が悪いようでちょっと怖い。

「幸川さん。きらりがすみませんね」

  斎川さんがわたしのテーブルの前にやって来て言った。

「あ、いえ、そんなことないです」

「すみません。きらりちゃんお姉さんに挨拶をしなさい」

  斎川さんがきらりちゃんの肩をぽんぽんと叩いた。

「し~ら~な~いよ~だ」

  きらりちゃんは下まぶたを指で引き下げてわたしに向かってあっかんべーをした。

「ちょっと、きらりちゃん!  何をしているのよ。お姉さんに失礼でしょ」

  斎川さんがきらりちゃんを叱ると、

「ふん!  わたしは部屋でお菓子でも食べよっと」

  そう言ってきらりちゃんはランドセルを揺らし歩き去った。

「きらりはちょっと難しい子で本当にすみません」

  斎川さんはぺこりと頭を下げた。

「あ、いえ気にしないでください」

  きらりちゃんの態度にちょっとだけムッとしたけれど相手は小学生の女の子なんだからそんなに謝られても困ってしまうのだ。

「すみません。あ、そうだわ。ちんすこうがあるのよ。ちょっと待っててくださいね」

  斎川さんはそう言うとパタパタと厨房に戻っていった。

わたしがふぅーと溜め息をつき沖縄そばの器に目を落とし食べようとしたその時美川さんが、

「あの子きらりちゃんが先程話した娘さんですよ」と言った。

「え?  それってどういうことですか?」
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