笑顔になれる沖縄料理が食べたくて

なかじまあゆこ

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「美川さん待ってください~」

  わたしは小走りで足の速い美川さんを追いかける。

「はい?  どうしましたか?  愛可さん歩くの遅いですね。ってか走っていますね」

  美川さんは振り返りながら言った。

「わたしの足が遅いのではなくて美川さんの歩く速度が速いんですよ」

  わたしはゼーゼーハーハーと息を切らしながら言った。

「俺の足速いですか?  ゆっくり歩きますよ。あ、でももう着きましたよ」

  美川さんが立ち止まっているところに目を向けると定食と書かれたのぼり旗と『元気になれる食堂』と書かれたオレンジ色の看板が目に入った。

「あ、そこなんですね」

  わたしは息を切らしながら『元気になれる食堂』と書かれた食堂の前に辿り着いた。

「はい、ここが現場ですよ」

「現場ってなんだか事件現場みたいですね」

「あははっ、そうですか?  ではお店に入りますよ。あ、その前に少しだけお話をしておきましょうか」

「はい。お願いします」

  そうだよ。前もって話をしてくれないと心の準備ができないのだから。

「この元気になれる食堂のオーナーさんとその娘さんを愛可さんのその笑顔で幸せにしてあげてください。以上です。さあ、行きましょう」

「あ、えっ!  以上って……説明になっていませんよ!  あ、ちょっと待ってくださいよ」

  美川さんは食堂のドアに手をかけているではないか。

  そして、美川さんはわたしの待ってくださいという言葉なんて無視して元気になれる食堂のドアを開けた。

  すると。

「いらっしゃいませ~」

  店員さんの元気な声が聞こえてきた。

  入ってすぐに食券機があり店内は広くて明るかった。

  美川さんは店内の奥までずんずんと歩いて行き、「こんにちは。斎川《さいかわ》さん」と厨房カウンターに立っている白色の割烹着を着た五十代くらいのおばさんに声をかけた。

「あら、美川さん。こんにちは」

「お店は繁盛していますね」

「はい、おかげさまで」

    斎川さんと呼ばれた女性は柔らかい笑みを浮かべた。

「斎川さん。連れてきましたよ」

「あらありがとうございます。そちらのお嬢さんですね」

  斎川さんはそう言ってわたしの顔を見た。

「はい、この方がご飯を笑顔で食べる女性こと幸川愛可さんですよ」

  なんて、美川さんはわたしのことを紹介するのだから信じられない。

「こんにちは。斎川 加奈子《かなこ》です。よろしくお願いします」

  斎川さんはにっこりと微笑み挨拶をしてきた。

「はじめまして、幸川愛可です」

  わたしは戸惑いながら挨拶をしてぺこりと頭を下げた。

だって、ご飯を笑顔で食べる女性なんて紹介されると焦ってしまうよ。

「きっと上手くいきますよ」

  美川さんは斎川さんにそう言ってにやりと笑ったのだった。
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