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美川よしおです

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目の前に座っている男性は得意げな顔でふふんと鼻を鳴らしている。わたしは悔しくてなんだか負けたような気がして男性の顔を睨んだ。

「改めまして美川みかわよしおです」

  この人いきなり自己紹介をしているよ。呆れてしまう。わたしが黙っていると、眉目秀麗な男性こと美川さんが、

美川みかわよしおです」ともう一度自己紹介をしてくるではないか。

「……はい。そうですか」

「はいそうですかって君。自己紹介されたら自分も名乗るが常識ではないか?」

  そう言ってどや顔になる美川さん。

「わたしは幸川愛可さちかわあいかですけど。でも常識って言うのでしたら美川さんこそ食堂に来たら食事を注文するのが常識だと思いますよ」

  美川さんは何も注文しないで席に座っているのだから。

「あ、そうでしたね。美味しそうにご飯を食べている愛可さんの幸せそうな笑顔に感動して忘れていましたよ。それにしても名前も素晴らしいじゃないですか」

「……それはありがとうございます。それより食事を早く注文した方がいいんじゃないんですか?」

「それもそうですね。う~ん、何を食べようかな?」

  美川さんはメニュー表を開き眉間に皺を寄せて食事を選んでいる。難しい考え事でもしている時に見せるような表情なのだ。

「俺、関東出身なんですけど沖縄料理が好きなんですよ。う~ん、沖縄そばも美味しそうだけどタコライスも気になるな~あ、ちょっと待てよゴーヤチャンプルーも食べたいな」

  美川さんはそう言いながらうんうん唸る。この人がメニューを選び終えるのをわたしはじっと待っていなければならないのかなと思うと溜め息が出る。

  そうだ、わたしには沖縄ちゃんぽんがあるではないか。さっきは食べ残してしまいそうになってごめんね。心の中でごめんねと手を合わせわたしはスプーンを手に取った。

  そして、わたしはスプーンで具とご飯をすくい口に運んだ。

  卵がとろーん。そして、もやしがシャキシャキしている。うん、やっぱり美味しい。わたしは美味しいものが食べられて幸せだな。

  うふふと幸せな気持ちになっていると、

「うん、やっぱりその笑顔だよ。素晴らしいぞ」

「え?」

  顔を上げると美川さんが、わたしの顔をじっと見ていた。

「その美味しそうに食べる顔に俺はぐぐ~ぐ~っと惹かれたんだ」

「……はぁ、そうなんですか……あ、ありがとうございます」

  あんなに真剣な表情で見ていたメニュー表は脇によけられている。

  そして、

「愛可さんに頼みたいと思っていた仕事なんだけど」

美川さんはそう言いながら名刺を差し出してきた。

  その名刺に書かれていたのは。
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