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第四章 緑川麗奈

由美ちゃんが憎い

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  さやカフェでエビピラフを食べている時も由美ちゃんのことを思い出し哀しくなったけれど、卒業アルバムを見つけあのおぞましい光景を思い出すと由美ちゃんに対して憎く感じる気持ちが強くなる。

  中学生になってからはクラスが離れ疎遠になってしまったけれど中学三年生のあのクラスで由美ちゃんを発見した時は飛び上がるほど嬉しかった。

  それなのに……。

  由美ちゃんはわたしが田本和子にいじめられていても他の友達と楽しそうに笑い合っていた。

  由美ちゃんは楽しそうに友達とお弁当の中身を交換したりして嬉しそうだった。

  わたしがこんなに苦しんでいるのに由美ちゃんは……。

  わたしのことなんて全く気にしてない。

  そんな由美ちゃんのことが憎くて仕方がなかった。


  由美ちゃんが笑うとわたしの胸は苦しくなる。わたしのことなんて全く気にしてないように見えているにもかかわらず時々振り返り心配そうにわたしのことを見る由美ちゃんの目にわたしの胸はチクリと痛んだ。

  助けてほしいのに由美ちゃんは助けてくれない。それだったらそんな心配そうな目でわたしのことを見ないでほしい。

  同情してますよ、なんてそんな目で見られると自分が哀れに見えてくる。中途半端な同情ならしないでほしい。

  ああ、まただ……嫌な感情が溢れてくる。黒く濁った真っ黒な感情が溢れてくる。

  わたしは溜め息をついた。済んだ過去のことなんてどうでもいいじゃない。わたしは自分自身に言い聞かせた。

  とりあえず落ち着こう。

  そうだ、ハーブティーでも飲んで落ち着こう。わたしは、手にしていた食器を掴み立ち上がった。

  ちょうど食器を片付けていたではないか。このティーカップに美味しいハーブティーでも淹れてゆっくりしよう。



  わたしは気持ちを落ち着かせようとラベンダーティーを選んだ。そして少し濃いめに淹れた。ラベンダーの強い香りが今のわたしにはちょうど良い。

  ティーポットからティーカップにラベンダーティーを注ぎ飲んだ。

  すると心がすっと落ち着いた。良かった。あの中学校の卒業アルバムがあるからいけないんだ。

  だって最近のわたしは田本和子のことも由美ちゃんのことも忘れていたじゃない。あの卒業アルバムは捨ててしまおう。そうしよう。

  そう考えたところでふと思った。

  田本和子のことも由美ちゃんのことも忘れていたと思っていたけれど本当にそうだったのかなと……。

  ああ、だけど、あの頃のことはもう考えたくないのだ。忘れていたのか忘れていなかったのかなんてどちらでもいいじゃない。

  わたしは、ラベンダーティーをもう一口飲み心を落ち着かせた。うん、とても良い香りがする。

  今日は早めに寝よう。卒業アルバムのことなんて考えないんだから。わたしはゆっくりとラベンダーティーを飲んだ。
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