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第四章 緑川麗奈
黒マジックと異様な光景
しおりを挟む辛くても悔しくてそして憎くてもずっと耐えてきたのだからわたしは最後まで逃げない。
ここで逃げて帰ると負けだと思った。だからわたしは、田川和子が何をするのか最後まで見届けるまで帰らない。
わたしは拳を強く握り締めた。
クラスメイト達が卒業アルバムのわたしの顔写真をぐにぐにぐにーと黒マジックで塗りつぶしている異様な光景を映画のワンシーンでも見るかのようにただぼんやりとわたしは眺めていた。
この人達は悪魔の集団なのかもしれない。人間ではないからこんなことが出来るんだね。きっとそうなのだ。人間の仮面を被った悪魔達がこの教室の中に居るんだ。
皆が同じように黒マジックを動かしている。黒マジックを動かしている。黒マジックを動かしている。あの人もこの人も黒マジックを動かしている。
クラスメイト全員が黒マジックを動かしてわたしの顔写真を塗りつぶしているのだった。なんて光景なんだろう。
わたしは唇をぎゅっと噛みしめて俯いていたけれど、それもなんだか馬鹿らしく感じてきたのだった。
哀しくて辛い気持ちも馬鹿の一つ覚えのように皆が同じ行動をとっている姿を眺めているとなんだかおかしくなってきた。
だって、皆は田本和子の指示に従いわたしの顔写真を塗りつぶしているのだから。
そんなあの頃の風景が甦った。思い出す度に胸がズキーンと痛んだ。この卒業アルバムを見ると嫌な思い出が甦ってくる。
だから、このダンボールに入っている卒業アルバムは捨ててしまおうかなと考えた。見ると吐き気がする。
わたしは、卒業アルバムが入っているダンボールを脇に避けて他のダンボールの片付けに集中した。
だけど、考えないようにしてもあの教室での不気味な光景を思い出してしまうのだった。わたしの顔写真を塗りつぶしているクラスメイトの姿が真っ黒な悪魔に見える。
真っ黒な悪魔のような生き物がうじゃうじゃうじゃうじゃうじゃうじゃいる。
そんな、真っ黒な悪魔のような生き物達が黒マジックを動かしている。
黒マジックを動かしわたしの顔写真を塗りつぶしているのだった。
わたしの顔写真を塗りつぶしているのだ。思い出したくない、考えたくないのに思い出してしまう嫌な光景が頭の中に浮かんでは消える。真っ黒な悪魔達が頭の中に浮かんでは消えるのだった。
そんな真っ黒な悪魔達の中でももちろん田本和子は憎いけれど、由美ちゃんのことがもっと憎い。
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