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第四章 緑川麗奈
卒業アルバム
しおりを挟むそれから一週間後のよく晴れた日。わたしはさや荘に引っ越した。
どうして自分がさや荘の住人になったのかよく分からない、このさや荘にぐぐーっと惹かれここに住みたいと強く思い気がつくと賃貸借契約書にハンコを押していたのだった。
さや荘には不思議な力がある。ううん、森口さんに不思議な力があると言った方が正解だろうか……。
今日からわたしはこのさや荘の住人になるのだ。
「さや荘、今日からよろしくね」
わたしは新しい住処に挨拶をした。すると、こちらこそよろしくと部屋が挨拶を返したように感じ不思議な気持ちになった。
きっと気のせいだよねとわたしは笑い部屋の中に山積みにされたダンボールを片付けることにした。引越しなんて何年ぶりかなと思いながらわたしは荷物を解いた。
その時、分厚いハードカバーの卒業アルバムが目に入った。
これは……。
どうしてこの卒業アルバムがダンボールに入っているのだろうか?
嫌な思い出がたくさん詰まっている卒業アルバムなんて見たくなくて実家の押入れの奥にあるはずなのに……。
それにこの卒業アルバムは本当は捨ててしまいたかった。そんな卒業アルバムがダンボールの中に入っているなんて信じられないのだった。
わたしは卒業アルバムから目を逸らし他のことを考えようとしたけれど駄目だった。あの卒業式の嫌な思い出がジワジワと溢れてくるのだった。
あの光景は今も忘れられなくてわたしの心の中に暗い影を落としている。
「皆、卒業アルバムのクラスの個人写真のページを開いて~」
と言った田本和子は口の端をにーっと吊り上げた。その表情は意地悪そのものだった。
田本和子が何を言い出すのかとわたしはドキドキした。
すると田本和子は、「では、その卒業アルバムの個人写真の中にいらない人が一人写っていると思うんだけどその人をこの黒マジックで消そうよ!」
なんてとんでもない話なんだろかと思った。田本和子は黒色のマジックを握っている。何をするのよ。その黒マジックで何をしようと言うのだろか?
わたしの心臓の音はドキドキドキドキと大きく響く。
田本和子「さあ、消すわよ」と言って黒マジックでグニグニ~とある人物の顔を塗りつぶした。
そうなのだ。ある人物とはこのわたし緑川麗奈だったのだ。
やっぱりと思ったのと同時にやめて---とわたしの心は叫び声を上げていた。
卒業するからもういいじゃない。田本和子はどうしてここまで意地悪なのだろうかと思った。
わたしはこの一年間悔しくて辛かった。ずっと耐えてきたのに。ずっと耐えてきたんだよ。
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