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第三章 田本和子
意地悪は楽しかった
しおりを挟む麗奈に今度はこんな意地悪をしようとわたしが提案すると里子は『それは面白いね』と言って興味を持ってくれた。
里子が興味を持ってくれるのでわたしは嬉しくなりどんどん意地悪にエンジンがかかる。そして、わたしはどんどん意地悪な女の子になっていったのだった。
「久しぶりに一緒に食事をすると中学時代を思い出すね。なんだか懐かしいな」
湯気越しに見る里子は中学時代の笑顔を浮かべていた。
「うん、色々あったけどあの頃は楽しかったね」
楽しかったことも辛かったことも今となっては良い思い出だ。麗奈に意地悪をしたことだって全部……。
目の前でグツグツグツグツ煮立ているお鍋の具材も残り少なくなってきた。
「お鍋のシメにご飯を入れよう」
わたしは残ったスープにご飯ととろけるチーズを入れた。
わたし達はシメのチーズ雑炊も笑顔で美味しく食べた。
「美味しかった~ごちそうさまでした」
「うん、美味しかったね。ごちそうさま」
懐かしい友人と囲む夕食は楽しかったな。
そう思ったのだけど。
「ねえ、和子ちゃん」
「里子どうしたの?」
「ねえ、田本さん」
この声はなんだか……。
この部屋にはわたしと里子しかいないはずなのだけど。二人の声が聞こえてくる。わたしは不思議に思いながら顔を上げると里子がじっとわたしの顔を見ていた。
目の前には里子しかいない。
「中学時代は本当に楽しかったのかな?」
「え? 勉強は大変だったけど楽しかったよね。里子も楽しかったよね。いつも笑い合っていたもんね」
わたしは無理矢理笑顔を作った。
「うん、楽しかったけど楽しくなかったかな……」
里子の顔は哀しげに歪んだ。
「どうして? 里子はいつも楽しそうに笑っていたじゃない」
「麗奈ちゃんをいじめたことも和子は楽しかったのかな?」
そう言って里子はわたしの顔をじっと見た。
「……それは、うん、あの頃は楽しかったかな? 今考えると悪いことをしたかなとは思うけど里子だってそうでしょ?」
「田本さんは楽しかったんですね」
「え! だ、誰が喋っているの?」
この声は……。
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