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第三章 田本和子
忘れたい卒業アルバム
しおりを挟むわたしの手には分厚いハードカバーの卒業アルバムが握られている。
この卒業アルバムは見たくもないので実家の物置の奥に置いてきたはずなのにどうしてここにあるのだろうか?
「和子ちゃん、顔色が悪いけど大丈夫?」
里子が心配そうにわたしの顔を除き込んだ。
「……ねえ、里子はこの卒業アルバムを見ても平気なのかな? 何も感じないの?」
わたしは里子の顔をじっと見て聞いた。
「えっと、あ、うん。あっ……思い出した」
里子の顔色がみるみるうちに青ざめた。
「里子は忘れていたんだ。麗奈ちゃんの顔を塗りつぶしたことを」
「うん、忘れていたというか思い出したくなくて忘れたふりをしていたのかもしれない」
わたしも同じだ。麗奈の悔しそうに唇を噛み締める姿を思い出したくなくて忘れてしまおうとしていた。
中学生だったあの頃はまだ幼くて麗奈の苦しむ姿を見てわたしはワクワクしていた。麗奈が苦しめば苦しむほど面白くて快感を覚えた。
だけど今考えるとわたしはなんて幼稚だったのかなと思う。だけど、どうしてここに卒業アルバムがあるのか分からない。
中学時代のわたしはクラスの女王様だった。わたしの言ったことにクラスメイト達は従うのだった。
野川里子はそんな女王様であるわたしの隣をキープしていた。里子は隣に置いておくのにちょうどいい人材であった。
里子は美人なわたしより少し劣り、だけどブスでもなくてちょっと可愛い女の子だったのでわたしのアクセサリーとしてちょうど良かったのだ。
わたしと里子はいつも一緒にいた。おトイレも一緒に行くし休みの日だって仲良く出かけた。わたしと里子は姉妹のように過ごした。でもあくまでも里子はわたしのアクセサリーだったけれど。
そんなある日、名前の話になった。
里子が「わたしの名前なんだか古臭くて嫌なんだよね」と眉を寄せながら言った。
「里子も自分の名前が古臭くて嫌だと思っていたの? わたしも和子って名前が嫌でこんな古臭い名前をつけた親を恨んじゃうよ~」
わたしは興奮して言った。
「うん、だって、今時里子なんて名前は流行らないよ~しかも子がつく名前自体古くて嫌だよね」
里子はふぅーと溜め息をついた。
「だよね……子がついてもせめて桃子とかだったらまだ可愛らしいけどね」
わたしもふぅーと溜め息をついた。
わたしと里子は顔を見合わせてもう一度ふぅーと溜め息をついた。
「ああ、嫌になる~」
名前の話でわたし達は盛り上がっていた。そんな時、ふとあの子の姿が思い浮かんだ。
そうあの子の姿が思い浮かんだのだった。それは緑川麗奈だった。
真っ黒に日焼けしたショートヘアの麗奈がなぜだか頭の中に浮かんだ。
「ねえ、里子。麗奈ちゃんって名前負けしてると思わない?」
「え? 麗奈ちゃん。あ、そうだね確かに!」
「でしょ。だって、麗奈って名前は美しいとか麗しいお嬢様ってイメージがあるよね。なのに麗奈ちゃんは真っ黒に日焼けしていてショートヘアなんだもん似合わないよね」
わたしは机をバンバン叩きながら言った。
「うんうん、和子の言う通りだよ。まったく似合わないよね。あの黒ん坊が麗奈だなんて笑ってしまうね」
里子はうんうんと頷いた。
「やっぱり里子もそう思うよね。あ、いいこと思いついたよ。麗奈ちゃんに意地悪をしようか?」
わたしはニヤリと笑った。きっとこの時のわたしの顔は醜く歪んでいたことだろう。
「それいいかも~面白いかもね」
里子はケラケラと笑った。そして、「流石和子ちゃんだね」と言った。
わたしと里子は新しい遊びを思いつき学校に通う楽しみが増えた。
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