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第二章 中西真紀

忘れていたのに

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  わたしはすっかり忘れていた。この卒業アルバムを目にするまでは麗奈のことを忘れていたのに……。

  嫌な思い出がじわりじわりとわたしに襲いかかってくる。麗奈のことを思い出すとそれとセットで田本和子の意地悪な顔を思い出す。

  田本和子の目が吊り上がり意地悪に歪んだ顔。それから笑っていてもその目は笑っていなくて恐ろしかった。

  だけど、田本和子には惹き付けられる何かがあるのかクラスの女王様だった。

  クラスのリーダー的存在でおしゃれで美人な田本和子。クラスメイトは田本和子に逆らうことができなかった。

  ある日の授業中、『緑川麗奈を無視しよう。麗奈ちゃんが話しかけてきても返事をしたらダメだよ』と丸っこい文字で書かれた手紙が回ってきた。

  わたしは田本和子が大嫌いだった。田本和子の言いなりになるクラスメイトも嫌いだった。

  だけどわたしも他のクラスメイトと同じだった。田本和子に逆らうことができなくて麗奈を無視した。

  卒業アルバムの背表紙を眺めていると情けない自分と麗奈の悔しくて泣きそうな顔と意地悪に歪んだ田本和子の顔とそれから由美とほのかの笑顔を思い出す。



  中学三年生のあのどす黒い嫌な空気が漂っていた教室に由美とほのかがいてくれたからわたしは学校に通うことができた。

  二人がいなければわたしはどうなっていたのかなと今考えると恐ろしくなる。

  だけど、麗奈はあの教室でどんな気持ちだったのだろうかと思うと胸が締め付けられそうになる。

  きっと麗奈は辛くて悲しくて逃げ出したかったのではないかなと思う。

  それを考えるとわたしは由美やほのかがいてくれて幸せだったんだなと改めて感じた。

  そんなことを考えながら本棚の前に立っていたその時。

    ドスンドスンドンドンドスンドスンドンドン、ドスンドスンドスンドンドンドン、ドスンドスンドンドンドンーーードーン!

  と足音が上の部屋から聞こえてきた。

  上の部屋の住人は部屋の中で何をしているのだろうか?  暴れているのかな?

  ドンドンドンドスンドスンドンドンドンーー!  ドンドンドンドスンドスンドンドンドンドスン!  ドーン!

  うるさいなんてうるさい音なのだろうか。卒業アルバムのことで嫌な気持ちになっているというのに……。

  イライラしたわたしは本棚の一番下の段に並べられている卒業アルバムを手に取った。

  そして。



  わたしは卒業アルバムを思いっきり壁に投げつけた。

  卒業アルバムは壁にぶつかりそして床に転がり落ちた。

  そして今も上の部屋からドンドンドンドスンドスンドスンドンドンドンドスンドスンドンドンドンとうるさい音が聞こえてくる。

「うるさい、うるさい、うるさいよ~静かにしてよ!」

  わたしはイライラして思わず叫んでしまった。

 ドスンドスンドンドンドンドスンドスンドスンドンドンドンドスンドスン!

  上の部屋の住人は部屋の中を歩き回っているのだろうか?  何かを叩いているのかな?

  あまりにもうるさくてこれは黙っていられないくらいの騒音レベルだ。

  ドスンドスンドンドンドンドスンドスンドスンドンドンドン!

 だけど、このうるさい音は何かを訴えているのかもしれないとふと思った。

  
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