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第一章 相田由美

消してしまえ

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「皆、卒業アルバムのクラスの個人写真のページを開いて~」

  田本和子は口の端をにーっと吊り上げ意地悪そのものの表情だ。

「和子ちゃん開いたよ~」

「俺も開いたぜ」

  クラスメイト達は何が始まるのかなとさも面白そうに笑う。このクラスの皆は人間の顔をした恐ろしい悪魔に違いない。

  わたしもその中の一人かもしれないけれど……。

「では、その卒業アルバムの個人写真の中にいらない人が一人写っていると思うんだけどその人をこの黒マジックで消そうよ!」

  田本和子は嬉しそうに笑い黒マジックのフタを開けた。

  ニヤリと笑い卒業アルバムを眺めている田本和子にクラスメイト達の視線が集まる。

  これは嫌な予感しかしない。

  田本和子は「さあ、消すわよ」と言って黒マジックでグニグニ~とある人物を塗りつぶした。

  わたしの嫌な予感が的中した。

  そうなのだ。田本和子は麗奈の顔写真をグニグニグニグニと黒マジックで塗りつぶしたのだった。

「不要な人物を消したわよ。さあ、皆も消すのよ」

  田本和子と野川里子がクラスメイト達に黒マジックを配った。

「相田さんもどうぞ~」

  田本和子はニヤリと笑いわたしの机の上に黒マジックを置いた。この黒マジックが恐ろしい凶器かのように見えた。

 そして、田本和子は麗奈が座っている廊下側の後ろから二番目の席にも黒マジックを置いた。

「あら、この席には誰もいなかったかな?」

  田本和子はクスッと笑った。

「その席には誰もいませ~ん!」とクラスメイトの誰かが言った。

  麗奈の席に目を向けると麗奈は俯き悲しそうに肩を震わせていた。

  誰も麗奈を助けようとはしない。今日で中学を卒業だというのにだ。麗奈も席から立ち上がり帰ればいいのにそうしようとはしない。

「和子ちゃん見てみて塗りつぶしたよ~」

  クラスメイトの女子が卒業アルバムを田本和子に見せた。

「ふふっ、上出来だよ。綺麗にいらない人物を排除したわね」

  田本和子はケラケラと悪魔のように笑った。

  その声に合わせてクラスメイト達が次々に黒マジックのフタを開け麗奈の顔写真をグニグニと塗りつぶした。
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