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第一章 相田由美

さやさんの赤リップ

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「あ、もう二十時だね」

  真紀ちゃんがスマホの画面に目を落とし言った。

「本当だ~」

  さやカフェで真紀ちゃんと懐かしい思い出話に花が咲き気が付くと日が沈み窓の外は真っ黒な世界に包まれていた。

「由美ちゃん、また会おうね」

「うん、また会っていろいろ話をしようね」

  真紀ちゃんとまた会いたい気持ちは嘘じゃない。けれど真紀ちゃんと会うと思い出したくないこともじわじわと頭に浮かび嫌な気持ちになることも確かだ。

  わたしは伝票を持ちレジカウンターで会計を済ませた。

  森口さんが「ありがとうございました」とにっこりと微笑みを浮かべた。

  そして、

「クッキーです。良かったら食べてくださいね」

  わたしと真紀ちゃんにクッキー入りの可愛らしい包みを渡してくれた。

「ありがとうございます」

  わたしと真紀ちゃんはお礼を言って受け取った。ほんのりとクッキーの甘い香りがした。

  わたし達が扉を開け外に出ると、

「またどうぞさやカフェへお越しくださいませ~」

  森口さんの声がわたし達を見送る。その声にわたしは振り向いた。

  すると、森口さんのキラキラと輝く赤リップが塗られた唇が裂けているように見えた。

 ひっーー!



  森口さんは口が耳元近くまで裂けた状態でにこにこにたーりと笑っている。その裂けた口元は真っ赤だった。

  ひえっ……。うぎゃーーー!

  真っ赤な森口さんの裂けた口がにやりにやりと笑っている。

「由美ちゃん、大丈夫どうしたの?」

  真紀ちゃんがわたしの肩をぽんと叩いた。

「……あっ、えっ、森口さんが……」

「森口さんがどうしたの?」

  真紀ちゃんは心配そうに眉間に皺を寄せわたしの顔を見ている。

「も、森口さんの……口が……」

「わたしの口がどうしたの?」

  森口さんの怪訝そうな声が聞こえてきた。

「えっ!」

  わたしは、恐る恐る振り返った。

  すると、森口さんのアーモンド型の綺麗な目が心配そうにわたしをじっと見つめていた。唇には赤リップがキラキラと輝いている。

「……あの……えっとその森口さんの唇が」

「わたしの唇がどうしたのかしら?」

  森口さんは可愛らしく小首を傾げた。

「いえ、唇が真っ赤で……」

  口が裂けていたと言いたいけれど言えない。

「うふふ、この赤リップかしら?  わたしのお気に入りのカラーなんですよ」

  森口さんは口元の下に人差し指を当てて可愛らしく笑った。

  口が耳元近くまで裂けているように見えたのは目の錯覚だったのだろうか?

  可愛らしく笑っている森口さんはまるでお人形さんのように可愛らしくて見間違いだったとしか思えないのだった。

「そ、そうですね。その赤リップ綺麗ですね……」

  わたしは無理やり笑顔を作った。

「うふふ、相田さんありがとうございます」

  森口さんはとびっきりの笑顔を浮かべた。


「由美ちゃん、じゃあまたね!  今日は楽しかったよ~」

「うん、真紀ちゃんわたしもだよ~」

  さやカフェの前でわたしと真紀ちゃんは連絡先を交換して別れた。

  真紀ちゃんは駅方面に向かい、わたしはスーパーに行くのを諦め近くのコンビニ向かいのり弁当とお茶を買った。

  さや荘の部屋に戻りのり弁当を食べた。

  それから森口さんに貰ったクッキーの包みを開けた。星形の可愛らしいクッキーが中から出てきた。まるで夜空に浮かぶ星みたいで綺麗だった。

  だけど、食べようかどうしようかと迷う。だって、森口さんの口が裂けた笑顔を思い出してしまうのだから。

  迷いながらもわたしは勇気を出して星形のクッキーを一口食べた。バターがたっぷりで美味しかった。

  きっと、あの口が耳元近くまで裂けた森口さんの笑顔は錯覚だったんだ。森口さんが化け物だなんてことは有り得ない。

  わたしは自分にそう言い聞かせた。
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