さや荘へようこそ！(あなたの罪は何？)

第一章 相田由美

赤い血は錯覚

「ココアを飲むと落ち着くでしょう」

  顔を上げ森口さんを見ると優しい笑顔を浮かべていた。

「はい、甘くて体がじんわりと温まり疲れが溶けていくようなそんな感じがします」

「うふふ、良かった」

  森口さんの口元はたっぷり塗られた赤リップがキラキラと輝いている。

  ぽたぽたぽたぽたと流れ落ちた、あの真っ赤な血は目の錯覚だったのだろうか。そんなことを考えながらわたしは森口さんの顔をじっと眺めた。

「わたしの顔に何かついていますか？」

  森口さんは首を傾げわたしの顔を見返した。

「いえ、何も……ついていません」

  そうだ、あの血は目の錯覚だったんだ。そうに決まっている。

  なんだ、良かった。わたしは胸を撫で下ろした。

「少し休んでからゆっくりとお部屋を見てくださいね。きっと気に入ると思いますよ」

「はい」

  わたしは、温かいココアと森口さんの笑顔の魔法にかけられてしまったのかもしれない。気がつくとなんだかこの部屋が居心地よく感じてきた。


  森口さんが、ではごゆっくりと言って部屋を出ていった。

  わたしは部屋に取り残された。マグカップに残っているココアを飲み干し息を吐く。

  さや荘はキッチンと六畳の和室に洗面、浴室とトイレのレトロなお部屋だった。わたしはこのさや荘に住んでもいいかなと思った。

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  そして、わたしは気がつくと賃貸契約書に判子を押していた。家賃は四万円だった。

  森口さんは、「ご契約ありがとうございます」と言ってにっこりと微笑みを浮かべた。

「こちらこそよろしくお願いします」

  わたしはぺこりと頭を下げた。

「そうだ、相田さん。モーニングセット無料で食べられますからね」

  そう言って笑う森口さんにわたしは、「わぁ、楽しみです。カフェのモーニングに憧れていました」と答えた。

「うふふ、腕によりをかけて美味しい料理を作りますね」

  森口さんは腕まくりをした。

  にっこりと笑う森口さんの笑顔は可愛らしくて癒される。唇から血を流して微笑む森口さんのあの姿は目の錯覚だったんだなと改めて思った。