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華夜ちゃんの友達
神様!
しおりを挟む神様のきょとん顔を見ていると怒るのも馬鹿らしく感じてくる。お金とご飯が大好きで食いしん坊で自分勝手な神様。
だけど、神様と出会えたからわたしは今、この中庭で華夜ちゃんと風子ちゃんと一緒にお弁当を食べているのかもしれない。
「おいおい奈夜ちゃん怒っているのかい?」
神様はそう言ってわたしの顔を覗き込んだ。その目は澄んでいてとても綺麗だった。
「ううん、怒ってなんていませんよ」と思わず声に出してしまった。
幸い風子ちゃんは食べることに夢中でわたしの声に気づいていないようだ。
「そうか。ならば良かったぞ。俺が奈夜ちゃんの梅干しを食べたから怒っているのかと思ったぞ」
神様はそう言って柔らかい笑みを浮かべた。ってちょっと待ってください。わたしはお弁当箱に目を落とした。すると、お弁当箱の真ん中にあった真っ赤な梅干しがなくなっていたのだった。
「か、か、神様ーーーー!!」
わたしは思わず叫んでしまった。
これはマズイと思ったけれど時すでに遅しだった。
美味しそうにピーマンとにんじんの炒め物とおにぎりをぱくぱく食べていた風子ちゃんがこちらに振り返る。
その風子ちゃんの目は大きく見開かれていた。わたしは、どうしようと思い焦ってしまう。
「……あ、えっとその……」
「今、神様って叫んだよね?」
風子ちゃんはお箸をお弁当箱の上に置きわたしの顔をじっと見た。
「えっ! き、気のせいじゃないかな? か、神様だなんてわたし言ったかな……」
苦しい言い訳に脇の下からたらたら汗が流れ出る。
「奈夜ちゃん、言ったかなも何も大声で叫んだんだよね?」
風子ちゃんはそう言いながらじーっとじーっとわたしの顔を見るのだから脇の下からたらたらたらたら汗が大量に流れ出る。
視線を神様にチラリと向けると涼しい顔でペットボトルの緑茶をゴクゴクと飲んでいる。神様はわたしの視線に気づき「奈夜ちゃん大変だな」と言ってニヤリと笑うのだった。
一体誰のせいでピンチに陥っているのでしょうか。ねえ、神様……。
わーん、もうどうしたら良いのと泣きそうになる。神様は知らん顔でペットボトルの緑茶をゴクゴクと飲み続けている。
狛子と狛助は「奈良漬も美味しいね~」なんて言い合いぱりぱり食べている。
なんて無責任な神様と狛犬達なんだろうかと呆れてしまう。
「ねえ、奈夜ちゃん」
風子ちゃんはわたしの顔をじっと見ている。
「……えっと、そのわたし……梅干しを鳥に食べられたみたいだから神様って叫んじゃったんだよ」
わたしは、あははと笑いながら空を見上げた。なんて苦しい言い訳なんだろう。空は青く澄んでいて美しいけれど飛んでいる鳥はカラスくらいだ。
「はぁ? 鳥が奈夜ちゃんの梅干しを食べたんだね」
「う、うん、恐らく……」
「そっか、カラスが食べたのかな?」
風子ちゃんは空を見上げて言ったけれど、絶対に信じていないと思う。華夜ちゃんに助けを求め視線を向けるとうふふと肩を揺らして笑っているじゃない。
もう誰も助けてくれないのだから涙がこぼれそうだ。
「うふふ、きっと、不思議な神様がそこにいるんだよ」
華夜ちゃんは神様に視線を向けて言った。
「なぬ! 不思議な神様じゃと」
神様はペットボトルの緑茶をテーブルに置き「俺は不思議な神様かな」と言った。
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