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ならまちに住む町屋奈夜
箱階段
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「奈夜ちゃんのおばあちゃんは優しくて笑顔が素敵なおばあちゃんだね」
その声に振り返ると狛子が口を大きく開け歯をにょきーんと見せて笑っていた。その狛犬姿の狛子の顔がなんだかユニークで可笑しくてわたしは笑ってしまった。
「ちょっと、奈夜ちゃんってばわたしの顔を見て笑ってない?」
「だって、狛犬姿の狛子ちゃんの笑顔はなんだか面白いんだもん」
「えっ? そうかな? わたしの笑顔は可愛らしいと思うんだけどね」
狛子は石で出来ている手を顎に当ててうーんと考えている。やっぱりその姿が可笑しくてわたしはクスクスと笑った。
「あ、奈夜ちゃんってばまた笑う~」
狛子は頬をぷくっうと膨らませた。
どれだけ柔らかい石で出来ているのかなと考えるともう笑いが止まらなくなりわたしは、手を叩いて大爆笑だ。
こんなに笑ったのは久しぶりかもしれない。
「奈夜ちゃんって笑い上戸なんだね」狛子は首を傾げてわたしの顔を眺めた。
「だって、狛子ちゃんが笑わせるんだもん!
あ~もう、あはは、笑っちゃうよ~」
「まあ、奈夜ちゃんが笑ってくれるとわたしも嬉しいから許してあげるよ」
「そうだね、奈夜ちゃんに笑ってもらえると僕も嬉しいな~」
狛助も石製の狛犬の姿でにっと笑った。
わたしはやっぱり笑ってしまった。こんなに笑うことができるなんて幸せなことなのかもしれないな。
「わたしの狛犬姿も可愛らしいと思うんだけどここは神社じゃないから人間の女の子の姿になるね」
「僕も人間の男の子の姿になりま~す」
そう言ったかと思うと、ぽんぽん、ぽんぽん、ぽぽんぽんと狛子と狛助は狛犬の姿から五歳くらいの人間の女の子と男の子の姿に戻ったのだ。
いやいや、狛犬から人間の姿に変身と言うか化けたと言うのが正解かもしれない。
「人間の狛子も可愛らしいでしょう?」
「人間の狛助もかっこいいでしょう?」
狛子と狛助はニコニコと笑った。
「うん、まあ、そっちのほうが可愛らしいかもね」
狛子のくりっとして大きな猫目はやっぱり可愛くてきゅんとなる。
狛助のくりんくりんしていて子犬みたいな目もやっぱり可愛らしい。
ずっと一人っ子だったわたしに、弟や妹ができたみたいでなんだか嬉しくなった。もしわたしに弟妹がいたらこんな感じだったのかなと思うと頬が緩んだ。
そう思ったのだけど……。
「奈夜ちゃんのお家は楽しいね」と狛子。
「あ、変わった階段だね」と狛助。
二人(二匹)は二階に続く箱階段の引き出しをカタカタと開けたり閉めたりし始めた。
「見てみて、階段の引き出しにお菓子が入っているよ」
「わっ、本当だ~食べちゃおうかな」
「あ、狛助見てみてお人形もあるよ。猫のぬいぐるみだね」
「わっ、可愛いね。もらっちゃおうか」
狛子と狛助は箱階段の引き出しを開け中を覗き込みわいわい騒いでいる。これでは目が離せなくて困ってしまう。
わたしもまだ中学二年生なのに急に幼い弟妹ができたみたいで大変ではないか。
箱階段はうなぎの寝床と呼ばれるような間口が狭くて、奥行きの長い建物の狭い空間を有効に利用しようとして、昔の人が階段でありながら箪笥としても使えるようにと考えた暮らしの知恵なのだ。
おばあちゃんの家は今もなおこの昔ながらの箱階段が使い継がれている。
それを狛子と狛助はおもちゃにして遊んでいる。神様にお仕えしているらしい呆れた狛犬さん達だ。
「ちょっと、狛子ちゃんに狛助君、さっきお菓子をたくさん食べたよね。あ、その猫のぬいぐるみはわたしがおじいちゃんにもらったぬいぐるみだよ」
そうだった。わたしがまだ幼稚園児だった頃におじいちゃんが買ってくれた猫のぬいぐるみだ。こんなところに仕舞ってあったんだ。
「あ、この可愛い猫ちゃんのぬいぐるみ奈夜ちゃんのぬいぐるみだったんだね。大切にしてあげなきゃダメだよ」
狛子は猫のぬいぐるみをぎゅっと抱き締めながら言った。ふわふわでとても触り心地が良い。
「……そうだね」
確かに狛子の言う通りだ。
「はい、猫ちゃん」と言って狛子は猫のぬいぐるみを差し出した。
狛子から猫のぬいぐるみを受け取るとなんだか懐かしい匂いがした。そして、なんだか切なくなった。
その声に振り返ると狛子が口を大きく開け歯をにょきーんと見せて笑っていた。その狛犬姿の狛子の顔がなんだかユニークで可笑しくてわたしは笑ってしまった。
「ちょっと、奈夜ちゃんってばわたしの顔を見て笑ってない?」
「だって、狛犬姿の狛子ちゃんの笑顔はなんだか面白いんだもん」
「えっ? そうかな? わたしの笑顔は可愛らしいと思うんだけどね」
狛子は石で出来ている手を顎に当ててうーんと考えている。やっぱりその姿が可笑しくてわたしはクスクスと笑った。
「あ、奈夜ちゃんってばまた笑う~」
狛子は頬をぷくっうと膨らませた。
どれだけ柔らかい石で出来ているのかなと考えるともう笑いが止まらなくなりわたしは、手を叩いて大爆笑だ。
こんなに笑ったのは久しぶりかもしれない。
「奈夜ちゃんって笑い上戸なんだね」狛子は首を傾げてわたしの顔を眺めた。
「だって、狛子ちゃんが笑わせるんだもん!
あ~もう、あはは、笑っちゃうよ~」
「まあ、奈夜ちゃんが笑ってくれるとわたしも嬉しいから許してあげるよ」
「そうだね、奈夜ちゃんに笑ってもらえると僕も嬉しいな~」
狛助も石製の狛犬の姿でにっと笑った。
わたしはやっぱり笑ってしまった。こんなに笑うことができるなんて幸せなことなのかもしれないな。
「わたしの狛犬姿も可愛らしいと思うんだけどここは神社じゃないから人間の女の子の姿になるね」
「僕も人間の男の子の姿になりま~す」
そう言ったかと思うと、ぽんぽん、ぽんぽん、ぽぽんぽんと狛子と狛助は狛犬の姿から五歳くらいの人間の女の子と男の子の姿に戻ったのだ。
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「人間の狛助もかっこいいでしょう?」
狛子と狛助はニコニコと笑った。
「うん、まあ、そっちのほうが可愛らしいかもね」
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そう思ったのだけど……。
「奈夜ちゃんのお家は楽しいね」と狛子。
「あ、変わった階段だね」と狛助。
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「見てみて、階段の引き出しにお菓子が入っているよ」
「わっ、本当だ~食べちゃおうかな」
「あ、狛助見てみてお人形もあるよ。猫のぬいぐるみだね」
「わっ、可愛いね。もらっちゃおうか」
狛子と狛助は箱階段の引き出しを開け中を覗き込みわいわい騒いでいる。これでは目が離せなくて困ってしまう。
わたしもまだ中学二年生なのに急に幼い弟妹ができたみたいで大変ではないか。
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「……そうだね」
確かに狛子の言う通りだ。
「はい、猫ちゃん」と言って狛子は猫のぬいぐるみを差し出した。
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