上 下
42 / 44
バスは来ない

食堂

しおりを挟む

みんな席に着いていた。

本日の夕食は、ご飯、納豆、卵焼き、野菜炒めに具沢山の味噌汁だった。シンプルな料理だ。

「みなさん、食料が少し心配なので、シンプルな料理ですみません。野菜は裏庭にビニールハウスがあるので安心してください。ただ肉類とか魚等が少なくなってきて申し訳ないです」

里見さんはそう言って頭を下げた。

「とんでもないですよ。こんな緊急事態なんですから、ご飯が食べられるだけでも幸せですよ」

みんなが里見さんに、

「そうです、そうですよ」と言った。

本当にそうだなとわたしも思う。

  
夕食の時間は和やかに過ぎていった。こうしていると、降り積もる雪も里美も大浴場であった出来事もその全てが現実離れして見える。

だけど、雪が降り積もっているのも現実であるし、わたしが里美を見たのも本当のことであり、大浴場で太郎と一緒に見た現象も間違いなく事実である。

こんな状況でもお腹は空き、野菜炒めもパクパク食べた。まだこうしてご飯を食べられることは元気が残っている証拠なのかなと思った。

  
「ねえ、みんな。この洋館には何かいると思う?」

わたしは突然みんなに聞いてみたくなった。一人で抱え込んでいると辛くて、辛くて堪えられない状況になってきているのだ。

「またまた、未央ちゃんの幽霊話が始まった。と、言っても俺も今回は大浴場での怖い体験をしているから何か居るのかもしれないとは思ったりするけれど」

太郎はコーヒーを飲みながら言った。

他のみんなは実際には見ていないからだろうか微妙な表情をしている。

「ねえ、未央ちゃん。未央ちゃんは小さい頃から幽霊話が好きだったよね?  だけど人一倍怖がりで自分で話してやめてーなんて言ってたよね」

春花ちゃんはふふっと口元に手を当てて笑った。

  
え、なんのこと?

「それは、わたしじゃない。里美だよ……」

そう、それはわたしじゃない。里美だ。みんなの記憶もわたしと里美がごちゃ混ぜになっているのだろうか。

「さ、里美ちゃんだった……」

何故だか春花ちゃんの話し方が変だ。

そして、食堂の空気が重々しくなっているように感じられるのは気のせいなのだろうか?

「里美だったよ」

わたしはもう一度言った。

「そう、だったかしら?  そうだったかもね」と春花ちゃんは言った。

「そうだった、そうだったよ~」

重々しい空気をはね飛ばすかのように、花音ちゃんがおちゃらけた調子で言った。

「だぞ、春花ちゃん。未央ちゃんと里美を間違えたら駄目だぞ~って俺も間違えていたけど」

太郎も明るい調子で笑っている。

「本当だね。未央ちゃんと里美ちゃん似てるから間違えてしまったね。ごめーん」

春花ちゃんは小さく掌を胸の近くで重ねて、えへへっと笑った。

「いいのよ。気にしないでね」

わたしも笑って返した。

だけど、さっきの重々しく感じられたや空気やみんなの表情はやっぱり変だなとは思う。

  
「さあさあ、みんな楽しい話をしようよ」

すみれが明るい声で言った。

「そうだよ。そうだよ」

京香ちゃんも続いて言った。

「里見さんの作る料理って本当に美味しいですよね」

すみれが里見さんの料理を褒めた。なんだか無理矢理話をすり変えられた気もするけれど、わたしの憂鬱な幽霊話をいつまでもしてしんみりするのも嫌だから、まあいいか。

だけど、みんな、この洋館に何かがいるかについては答えていないではないか。

「ありがとうございます。わたしの生き甲斐は料理で皆さんに喜んで頂くことなんですから」

里見さんは嬉しそうに笑った。

いいな、楽しい生き甲斐があるなんて。

羨ましい。

  

美味しいご飯を食べている瞬間は里美のことなど少しは忘れて幸せな気分に浸ることも出来る。やっぱり、里見さんは凄いな。

そういえば、里見さんの苗字は偶然にもあの子里美と同じだ。なんでまた同じ名前なのよ。まったくもう。それにしても偶然が今回の旅では多いような気がする。

偶然、この洋館に来て、偶然昔の同級生と再会。あまりにも偶然が偶然を呼びすぎではないのかな。

デザートのリンゴを里見さんが剥いてくれて食べた。リンゴも甘味がほんのりして美味しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オレンジ色の世界に閉じ込められたわたしの笑顔と恐怖

なかじまあゆこ
ホラー
恐怖の同窓会が始まります。 オレンジ色の提灯に灯る明かりが怖い! 泊まりの同窓会に行った亜沙美は……ここから抜け出すことが出来るのか!帰れるの? 東京都町田市に住んでいる二十五歳の亜沙美は最近嫌な夢を見る。 オレンジ色の提灯に明かりがぽつんと灯りオレンジ色の暖簾には『ご飯屋』と書かれた定食屋。 包丁を握るわたしの手から血がぽたりぽたりと流れ落ちる。この夢に何か隠れているのだろうか? 学生時代のわたしと現在のわたしが交差する。学生時代住んでいたあるのは自然だけの小さな町に同窓会で泊まりで行った亜沙美は……嫌な予感がした。 ツインテールの美奈が企画した同窓会はどこか異様な雰囲気が漂っていた。亜沙美に次々恐怖が迫る。 早く帰りたい。この異様な世界から脱出することは出来るのか。 最後まで読んで頂けるとわかって頂けるかもしれないです。 よろしくお願いします(^-^)/

#この『村』を探して下さい

案内人
ホラー
 『この村を探して下さい』。これは、とある某匿名掲示板で見つけた書き込みです。全ては、ここから始まりました。  この物語は私の手によって脚色されています。読んでも発狂しません。  貴方は『■■■』の正体が見破れますか?

変貌忌譚―変態さんは路地裏喫茶にお越し―

i'm who?
ホラー
まことしやかに囁かれる噂……。 寂れた田舎町の路地裏迷路の何処かに、人ならざる異形の存在達が営む喫茶店が在るという。 店の入口は心の隙間。人の弱さを喰らう店。 そこへ招かれてしまう難儀な定めを持った彼ら彼女ら。 様々な事情から世の道理を逸しかけた人々。 それまでとは異なるものに成りたい人々。 人間であることを止めようとする人々。 曰く、その喫茶店では【特別メニュー】として御客様のあらゆる全てを対価に、今とは別の生き方を提供してくれると噂される。それはもしも、あるいは、たとえばと。誰しもが持つ理想願望の禊。人が人であるがゆえに必要とされる祓。 自分自身を省みて現下で踏み止まるのか、何かを願いメニューを頼んでしまうのか、全て御客様本人しだい。それ故に、よくよく吟味し、見定めてくださいませ。結果の救済破滅は御客しだい。旨いも不味いも存じ上げませぬ。 それでも『良い』と嘯くならば……。 さぁ今宵、是非ともお越し下さいませ。 ※注意点として、メニューの返品や交換はお受けしておりませんので悪しからず。 ※この作品は【小説家になろう】さん【カクヨム】さんにも同時投稿しております。 ©️2022 I'm who?

インター・フォン

ゆずさくら
ホラー
家の外を何気なく見ているとインターフォンに誰がいて、何か細工をしているような気がした。 俺は慌てて外に出るが、誰かを見つけられなかった。気になってインターフォンを調べていくのだが、インターフォンに正体のわからない人物の映像が残り始める。

岬ノ村の因習

めにははを
ホラー
某県某所。 山々に囲われた陸の孤島『岬ノ村』では、五年に一度の豊穣の儀が行われようとしていた。 村人達は全国各地から生贄を集めて『みさかえ様』に捧げる。 それは終わらない惨劇の始まりとなった。

尾子-おね-

よつば 綴
ホラー
失踪した百合香の行方を知る男が現れた。 男は、百合香の弟である健人に全てを語る── 匿名での感想やメッセージなどはコチラへ💌 https://ofuse.me/e/32936

信者奪還

ゆずさくら
ホラー
直人は太位無教の信者だった。しかし、あることをきっかけに聖人に目をつけられる。聖人から、ある者の獲得を迫られるが、直人はそれを拒否してしまう。教団に逆らった為に監禁された直人の運命は、ひょんなことから、あるトラック運転手に託されることになる……

【本当にあった怖い話】

ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、 取材や実体験を元に構成されております。 【ご朗読について】 申請などは特に必要ありませんが、 引用元への記載をお願い致します。

処理中です...