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バスは来ない
バス
しおりを挟む「やっぱり、今日もバスは来ないようですね」
里見さんのその声にわたしは肩を落とした。
今日は二月十一日。帰宅の日だったというのに、これでは今日もこの洋館に延泊は決定的だ。
あの日、あのチラシを見つけなければ良かった。そもそも、あの古本を買わなければ良かったのだ。その前に、あの古本屋に行かなければ良かった。
わたしの中で、あの日やあの本などが頭の中をぐるぐるとまわる、だけど、だけど済んだことを考えても仕方がない。
それから、退屈なんてしてなければ良かった。
駄目だ、また考えている。
それよりも会社に明日も休むと連絡をしておかなければと、思ったところで、はたっと思い出した。スマホは電波が届いていなかったということに。
どうしようと、他のみんなにも聞いて見たけれど、他のみんなも全員電波が届いていなかった。どうしようこれでは無断欠勤になってしまうではないか。
困ったものだ。もう嫌になる。
することも何もないし、何が『退屈しているあなたに』だよ。これでは更に退屈だと思う。あのチラシは里見さんが作ったチラシだと思う。
うじうじ悩んでいても仕方がないので、今を楽しむしかない。幽霊も里美も大浴場も全てが怖いけれど、わたしは負けない!拳を強く握りしめた。
それにしても、この洋館の周囲は雪で埋もれている、木々も建物もその全てが……。
きっと除雪車もなかなか通ることもできない雪なんだろう。これじゃあ、まるで、映画やニュースの中の話しみたいだ。こんな現実に直面するなんて思ってもみなかった。
することもないので、何となくこの洋館のチラシが挟まっていた古本を開いた。
だけどどうして、わたしはこの古本を買ったんだっけ? たしか、すみれと一緒に古本屋に行き何気なく手に取ったのがこの本だった。
あまり良く覚えていない。この洋館のチラシも手元に持ってきて、チラシと古本を一緒に並べてみた。
特に変わったことのないチラシと古本だけど、まさか誰かがこのチラシをわざと挟んだとか?
何のために? 分からない。
わたしの思い過ごしかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。考えれば考えるほど分からなくなる。
里見さんがお昼ですよと声を掛けてくれた。
階下に下りていくと、「食材を買いに行くことが出来ないので朝の残り物になりますが我慢してくださいね」と言った。
そうだ、わたし達はこの洋館に閉じ込められているのだった。もし、このまま、何日間も除雪車も来なくて閉じ込められたままだったら、わたし達はどうなるの?
幽霊や里美とは別の意味で、それを考えると怖くなってきた。
外を見るとまだ少し雪も降っていた。
お昼ご飯は、お味噌汁におにぎり、沢庵、お豆、煮物だった。やっぱり里見さんが作ってくれるご飯は美味しかった。
とりあえず時間はゆっくりと過ぎていき、気がつくと夜になっていた。どうやら、わたしは少しウトウトしていたようだ。
何にもしないでお布団の中でゴロゴロするのは気持ちがいい。ずっとこのままゆっくりとしていたいよ。
なんて、楽しい時間をかみしめた。
なのに……。
『未央ちゃん……』
え、この声は。
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