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雪降る洋館に閉じ込められた

夢の中のあの子に追いつめられて

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寝るのは少し恐いし憂鬱だけど、瞼がやってくる眠気には勝てずベッドの上で横になった。そして、うつらうつらとしてきて、気がつくと夢の世界にいた。

小さなあの頃の夢を見た。カチッカチッとスローモーションのようにあの頃のわたしの姿が流れて見える。

小さな自分のことが可愛いなと恐い夢の中に佇みながらも、時折笑ってしまった。

『未央ちゃん』とわたしのことを囁き声で呼ぶあの子も夢の中では元気いっぱいの明るい普通の女の子だった。

  
夕焼けが校舎を照らす。四階建ての小学校、その中をわたし達は手を繋いで歩く。笑顔、笑顔。みんなのたくさんの笑顔が眩しい。

楽しかったあの日の思い出、わたしにあの子里美にそして、今この洋館に集まっている皆の小学校時代の笑顔が眩しい。

これは、夢を見ているの?

それとも起きているの?

夢と現実の境が分からない状態になっている。寝ているのか起きているのかあやふやな感覚におそわれる。

何故、今こんな夢をみるのだろう?  それは恐らく今、この洋館で皆に会ったからだろう。わたしも人並み、もしくはそれ以上に楽しかった小学校時代。

だけど、それがあの日の事件を境に変わってしまった。そう、わたしが起こしたあの日のある出来事によって。

  
場面は一転して、綺麗な夕日が眩しい校舎から、薄暗い階段へと変わった。さっきまであの子里美は元気に笑っていた。だけど、今は違う。

わたしと里美はたわいもないことで喧嘩をした。

そして、わたしはあの日あの時、階段の上にあるものを置いた。そのせいで里美は、里美は……。嫌だ思い出したくない。思い出したくない、だってあれはわざとじゃないもん。

里美にちょっと意地悪をしたくなっただけ、嘘じゃない。信じて。里美は後ろを向いている。わたしは里美に声を掛けた。
すると、里美は。

駄目だ、わたしの頭の中で記憶のシャットダウンがはじまった。

  
ダメダメダメダメダメダメ。思い出したくない。わたしの脳は、あの日の出来事を思い出すことを拒否する。絶対に思い出したくないと。

夢の中の里美は。

里美はいきなりくるりんと、こちらに振り向いた。そしてその顔を見たわたしは、声を上げそうになった。だけど怖すぎて声にもならない。歯がガタガタと震える。

『未央ちゃん、久しぶりね』と里美は口を開いた。その口からは血が出ている。たらりと血が垂れていた。

  口の端が大きく裂けて血が垂れ、目には涙が浮かび美しかったはずの肌は紫色に変色していて、その肌には無数の傷痕がある。髪の毛は乱れてクネクネしていた。

わたしは、わたしは、里美をこんなめには遭わせてはいないはず。

『未央ちゃんどうしたの?  わたしが誰だか分からないの?』

里美の声は低い低音でわたしの胸にずーんと響いてくる。『ねえ、未央ちゃん』里美はわたしに一歩一歩近づいてくる。わたしは怖くなり後ろに一歩下がる。

薄暗い階段と里美。

もう駄目だ。

どうにかなってしまいそうだ。

  
じりじりと里美がわたしに迫ってくる。わたしは一歩また一歩後ずさる。里美の顔面紫色の皮膚に先程まで目に浮かべていた涙がそう無色透明だったはずのその涙が、赤色に変わる。

血の色みたいなドロリとした真っ赤な赤色。

心臓の音が大きくなる。自分の心臓の音がドクンドクンドクンと速くなっていることに気がついた。

里美がまた一歩わたしに近づいてくる、そして、『未央ちゃん、あなたが大好きだったわよ』低い低音の里美の声はあまりにも恐ろしくてわたしの心臓をえぐりそうだ。

もう駄目だ。これ以上は逃げられない。わたしの後ろには壁があるこれでは恐怖の壁ドン状態だ。

  
じりじりじりじりと近づいてくる里美の瞳は赤色の涙を流したように見える。

ゾクゾクゾワゾワしてわたしの皮膚に鳥肌が立っているのが分かる。

里美の紫色の顔面がわたしに近づく。

『未央ちゃん、未央ちゃん遊ぼうよ。どうしたの?』

わたしが答えることが出来ずに歯をガタガタと鳴らして怯えていると、

『未央ちゃん、遊ぼう。ねえ、未央ちゃん』と里美は言いながらわたしの肩に手を伸ばした。
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