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真実とは恐ろしいもの

朝はやって来る。そして……

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  わたしが、どんなに辛くても朝はやって来る。今日も窓から差し込む朝の光が眩しかった。

  カーテンを開けると朝の光がぶわぁ~とわたしを包み込んでくれる。

  お兄ちゃんの日記帳を抱きしめたまま眠ってしまった。学校に行く気力も朝ご飯を食べる元気もない。

  
「史砂ちゃん~」

  お母さんの階下からわたしを呼ぶ声がした。

  わたしは、目が腫れぼったくなっていないか気になり鏡を覗いた。

  やっぱり思った通り分厚い瞼になっていた。これじゃあお母さんが心配するだろうなと思うと余計に気分が滅入る。

「史砂ちゃ~ん、起きなさい」とお母さんの声。

「は~い」とわたしは、元気な声を無理やり作った。

  
  仕方がないのでわたしは重たい身体を無理に引きずり階段を下りた。

  階段は、ミシミシと音が鳴る。

  こんなありふれた日常は幸せなはずなのに、だけど、今のわたしには何も感じることもできない。

  だって、あんなお兄ちゃんの悲痛な叫び声が書かれた日記を読んで平常心でいられるなんて不可能だ。

  ミシミシミシミシと、音が鳴る階段を下りた。

  
  
  わたしが、一階に下りていくと、お母さんは台所でトントントンと野菜を切っていた。

  わたしの足音に気がついたお母さんは、こちらを振り向かないで、「史砂ちゃん、おはよう」と言った。

  わたしも、「お母さん、おはよう」と挨拶をした。それから急いで洗面所に行き、顔をバシャバシャと洗った。冷たい水道水が心地よい。

  目をタオルで冷やしてみた。だけどあんまり変わらない。

  
  仕方がないのでわたしは、諦めて食事の間に行った。座布団に腰を下ろしお父さんに「おはよう」と言った。

「史砂か、おはよう」お父さんは新聞から顔を上げてわたしの顔をちらっと見る。

「今日の朝ごはんは何かな?」

  わたしは、無理矢理笑顔を作ったけど上手くできただろうか。

  
「今日はね、朝から中華丼にしたわよ」

  お母さんはそう言ってわたしとお父さんの目の前に、どーんと中華丼のどんぶりを置いた。

「おっ、旨そうだな」

  お父さんは言ったけれど朝から中華丼なんて胃に重そうだ。

  だけど、お兄ちゃんのことでショックを受けていても朝から中華丼を食べると少しだけ元気が出た。

  お母さんは、わたしの目の腫れについては何も言わなかった。

  
「ごちそうさまでした」

  わたしが流しに食器を持って行くとお母さんがわたしの顔を見た。

  そして、小首を傾げた。目の腫れのことを言われると思いわたしはビクビクした。

「なんだろ?  何かが変だわ」とお母さんは言った。

「え、何が?」

「ううん、気のせいね」

  お母さんは、不思議そうに眉をひそめていたけれど、すぐにいつもの少しタレ目の優しい笑顔で微笑んだ。

  
  なんだろ?  変なお母さんだ。どうしたんだろう?

  わたしも、ちょっと不思議な気持ちになってきた。

  これは、なんだろう。よく分からないけれど、ドキンドキンとなんとも言えない恐怖を感じ胸騒ぎがしてきた。激しく打つこの鼓動。

  ドキンドキンと波のように打つ鼓動。

  なんだか分からないけれど、何かが変だ。

  わたしは、胸を押えながら、お兄ちゃんの仏壇がある和室へと歩いて行った。
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