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カラスと日記帳

カラスとお兄ちゃんと日記帳

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  なんだって言うのだろうか?  『自分で考えるんだな』とは何?

  わたしとカラスの間に何かがあるとでも言いたいのだろうか?

  頭の中に疑問符が溢れかえる。

  だけど、とりあえず助かった。机の上にあるカッターナイフを見てわたしは身震いをした。

  もう少しで自分の喉を突き刺してしまうところだった。考えると恐ろしいことだ。血がどばどば溢れて、駄目だ想像をすると倒れてしまいそうだ。下手すると今頃血の海だったかもしれない。

  
  
  わたしはバクバクする心臓に手を当てて深呼吸をした。

  それから、畳の上に転がっている猫の鞄からお兄ちゃんの日記帳を取り出した。

  読む気力も失いかけていたけれど、気持ちを切り替えて読もうと思う。

  わたしは、お兄ちゃんの日記帳を開いた。

  そして、ぱらぱらとページを捲った。

  
○月○日

  暫くの間、日記は書いていなかった。久しぶりにこの日記帳を開いて俺はペンを走らせた。

  俺は、自分とそっくりなあの男の子を探して歩いた。

  この前あの男の子を見かけた隣町のマックにも寄ってみたけれど、あの日以来あの男の子を見かけてはいなかった。

  それから、史砂にそっくりな女の子も見かけてはいなかった。

  やみくもに探して見つからないと思う。

  もう探すのはやめようかな……。

  それに、本音を言うとやっぱりちょっと怖い。

  
  ○月○日

  俺の前に一羽のカラスが現れた。

  そのカラスは黒くて黒くてそれは真っ黒なカラスだった。まあ、カラスなんだから黒くて当たり前だとは思うんだけど……。

  ただ、このカラスは真っ黒なだけではなくて、なんて言ったらいいのか、黒いオーラとでもいうのか異様な雰囲気を漂わせていたのだ。

  俺の前に現れたそのカラスを見た瞬間、背筋がゾクゾクとし、その場から逃げ出してしまいたいほどの恐怖を感じた。

  
  カラスのつぶらな瞳が俺をじっと見ている。カラスのその瞳から目を逸らそうとするが、なぜだか目を逸らすことが出来ない。

  何故なんだ。カラスが食い入るように俺を見る。カラスが一歩俺に近づいてくる。

  俺は後退りをする。

  すると、カラスがまた一歩俺に近づいてくる。

  俺は後退りをする。

  カラスがまた一歩俺に近づいてくる。

  なんなんだよ?    このカラスは何だっていうんだよ。

  俺は怖くて息も出来ない。

  
  カラスの目は俺を恨んでいるようなそんな目にも見えた。そして、カラスはカーカーッと鳴いた。

  カーカーッカーカーッカーカーッ。

「なんか、俺に言いたいことがあるのか?」

  俺は声を絞り出すようにして尋ねた。

  カラスは俺の言葉を無視して、バサバサと飛んだかと思うと、あっ、と思ったその時には既に、俺の顔を足で蹴飛ばした。

「痛っ」と声が出てしまった。


  
  俺は恐怖で逃げようとするけれど、カラスはバサバサと飛びそして、もう一度俺を狙いバサバサと物凄い勢いで飛んできた。

  飛んできたカラスは、俺のおでこをその足で蹴り上げた。

「何をするんだよ。くそカラス」

  カーッガァガァカー!!

  俺の言葉が分かるのかカラスは威嚇しているかのように鳴く。

  いや、これは威嚇というよりも俺を攻撃しようとしている鳴き声だ。

  俺は恐ろしくなり走り出した、だけど俺の後を空を飛びながら追いかけてくるカラス。

  これは、ちょっとヤバイかも。

  
  俺は走って逃げるが、カラスは空を飛び追いかけてくる。逃げても逃げても追いかけてくる。

「空を飛んでずるいぞ!」

  俺は走りながらカラスに向かって叫んだ。

  カラスは俺が叫んでも気にすることもなく追いかけてくる。

  俺は、あまりにも頭にきて道端に落ちている小石を拾いカラスに向かって投げた。

  ガァカーッカーッ!!

  カラスは、凄まじい声で鳴いた。

  俺が投げた小石はカラス当たりそうになったがカラスは避けた。

  そして、カラスは。

  
「許さんぞ」

  カラスは喋った。

  そのカラスの声は低くて良く通る声だった。あまりのことにびっくりした俺は腰を抜かしそうになった。

「お、お前は話ができるのか!」

  俺の問いかけにカラスは、

「そうだよ。話せるぞ」と低くて良く通る声で言った。

「そ、そうなのかよ、そ、それで何を許さないんだ?」

「覚えていないのか……」

  カラスの声は地面の奥から這い上がってくるようなそんな声だった。


  
「覚えていないとは何がだ?」

  このカラスはなんのことを言っているんだ?

「そうだよな、お、ぼ、え、て、いないよなーーーーーー」

  カラスの声は大地を切り裂くような声だった。地面から這い上がってくるようなその声はあまりにも恐ろしくて俺を恐怖に陥れた。

  

  グウァーカーッカーッカーッー

  カラスは鳴いたかと思うと、バサバサバサバサと飛び背後から俺の頭を足で蹴り上げた。

  俺はカラスに蹴られた勢いで、体が前に傾き両手を突いて倒れかかった。

  そんな俺にカラスは容赦なくもう一度足で蹴り俺の頭を踏みつけた。

「何をするんだよ!」

  俺は怒りの声を上げた。

「それは、こっちの台詞だな」とカラスは、言った。

  
  
  ーーーーー

  わたしは、ここまで読んでドキドキが止まらなくなってきた。お兄ちゃんの日記帳を持つ手にも自然に力が入る。

  お兄ちゃんは、わたしと同じ目に遭っている。そして、カラスがお兄ちゃんに言った言葉が気になる。

  カラスは、『許さんぞ』、『おぼえてないよな』、『こっちの台詞だ』と言った。

  それから、低くて良く通る声と書いてある。これは、間違いない、わたしを襲うあのカラスとまったく同じカラスだ。

  そう言えば、カラスはわたしに、『史砂自分で考えるんだな』と言った。
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