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お兄ちゃんと本

トイレに閉じ込められたわたしは

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  駄目だ、また泣いてしまいそうになる。いつまでも泣いていたってお兄ちゃんは、戻ってこない。

  そんなことはわかっているのに……。

  カラスの悪魔にゆかりや真由を売り渡すことなんて出来ない。

   悪魔になろうと思ったけれど無理だったんだから。

  目の前にいるゆかりと真由の話は、ドッペルゲンガーの話から明るい話題に変わっていた。

   駄目だ。わたしは笑えない。

  
  わたしは席を立ち、「トイレに行って来るね」と言った。

「いってらっしゃい」ゆかりと真由は声を口を揃えて言った。

  二人がトイレについて来なくて良かった。

  わたしは、ふ~っと息を吐いた。

  トイレの個室に入り蓋の閉まった便座の上に座る。今は一人になりたかった。

  明るいゆかりや真由の話についてはいけない。だからと言って二人に心配はかけたくない。

  
  今は何も考えたくない。わたしは、目を閉じた。そして、心を落ち着かせるためにそっと息を吐いた。

  しばらくの間トイレの便座の上で眠ってしまっていたみたいだ。

  いけない、お昼の時間が終わってしまう。わたしは、仕方がないので立ち上がりトイレのドアを開けた。

  
  洗面台で手をゴシゴシ洗いついでに顔もばしゃばしゃと洗った。水が冷たくて心地いい。

  わたしは、鏡を見て、「よし!」と気合いを入れた。まだ、あどけなさの残る幼い顔のわたしが笑った。

  午後からも頑張ろう。 そう思いトイレから出ようとしたその時。

  ポトポトピチャピチャポトポトピチャピチャと音が鳴る。

  なんだろ?  水道の蛇口の閉め忘れかなとわたしは振り返った。

  すると。

  
  ポトポトピチャピチャポトポトピチャピチャポトポトピチャピチャ。

  水道の蛇口からポトポトピチャピチャと流れ落ちている、それは……。

  それは、真っ赤な色をしていた。

  まさか、血……?。

  そんな馬鹿なことってないよね?

  わたしは、恐る恐る水道の蛇口に近づいた。

  
  近づくと、ポトポトピチャピチャと蛇口から落ちるそれは、真っ赤でまるで血のようだったのだ。

  どうして、どうして血が?

   怖い逃げないと……。

   わたしは、慌ててトイレのドアノブに手をかけた、かけたんだけど……。

   ドアが開かない。どうして、ガチャガチャガチャガチャとドアノブをまわすけれど、開かないよ。

  ドンドンと叩いてみるけど開かない。

  ポトポトピチャピチャポトポトピチャピチャ。

  嫌だ、嫌だーーーーーーーーー!!!

  

  ガチャガチャガチャガチャと何度も何度もドアノブをまわすけれど、開かないではないか。

 「誰か、トイレのドアを開けてー!」

  わたしは、廊下を誰かが歩いていないかなと思い開けてと叫んだ。

  だけど、誰も来ない。

  どうしよう……。

  授業も始まってしまう。

  わたしは、勢いをつけてドアに体当たりするけれど開かない。

  どうして?  開かないのよ?

  
  ポトポトピチャピチャポトポトピチャピチャと蛇口から落ちる赤色の液体。

「誰か、誰か助けてーーーーーーーー!!」

  わたしは、大きな声を出した。だけど誰も助けに来ない。

  どうして、誰も助けに来ないのよ。

  お願いだから助けて、助けてよ。

「ねえ、誰か、誰か、聞こえないの?」

  わたしは、力の限り扉を叩いた。手が痛くて痛くてどうにかなりそうだ。だけど、そんなことは、言っていられない。

  怖いよ、怖いよ、後ろから聞こえてくる、ポトポトピチャピチャという音が聞こえてくる。

   誰か、誰か助けてよ。

  
  どうなっているの?    

  わたしが何をしたと言うの?  教えてよ。

  だけど、誰も答えない。ただ、ポトポトピチャピチャピチャピチャと音が聞こえてくるだけだ。

  わたしは、何もしてないよ。わたしは、何も……。

  怖くて怖くて涙が次から次へと溢れてくる。何故、わたしは、こんな目に遭うの。ねえ、どうしてどうしてよ。

  
  ねえ、どうしてよ。体力も気力も力尽きてわたしは、ドアの前にヘナヘナと座り込んでしまった。

   お兄ちゃんが亡くなり暫くするといろいろな現象が起こるようになった。

  最初は白い人影を見た。それから、カラス。そのカラスが喋った。喋ったカラスはわたしに、『お兄ちゃんを生き返らせたいのなら友達を犠牲にしろ』と言った。

  そうだ、わたしは、『悪魔になります』と言ったんだった。

    そうわたしは……。

  
  わたしは、大切な友達を悪魔に売ろうとしたとんでもない人間なんだ。何もしてないなんて笑えてくる。

  そうだ、そうなんだ、わたしは、悪魔のような女の子だったんだ。

  わたしは、『悪魔だ』アハハハッ、悪魔なんだよ。

   本当に馬鹿なわたしだよ。

  最高に馬鹿なんだよ。笑うしかない。だからこんな酷い目に遭うんだね、ううん、わたしがしたことと比べたらこんなことくらい何ともないよね……。

   
  
  なんてことない……。

  そう、これぐらい。

  と、そこまで考えたところで、ふと思った。

  わたしが悪魔にゆかりと真由を売り渡すと言ったのに止めたからこんなことが起こるのだろうか?

  カラスがわたしを襲う、あのくちばしで何度もつつかれた。

  そして、今トイレに閉じ込められている。

  
  「わたしを閉じ込めても大切な親友を売り渡したりしないからね」

  わたしは、声に出して言った。

  だけど反応はない。トイレのドアノブをもう一度ガチャガチャまわしてみるけれど扉は開かない。

  わたしは、溜め息を一つついた。

   水道の蛇口からは、まだポトポトピチャピチャと音が鳴る。

   このまま一生ここから出ることは出来ないのかな。それもいいかもしれないね。

  わたしは、悪い子なんだから……。

   そこまで考えたところで、わたしの意識は途切れ眠りに落ちていた。
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