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あの時あの場所で
ありふれたお弁当が羨ましい
しおりを挟むゆかりと真由のお弁当をちらりと見ると、ごくありふれたお弁当だった。
というよりも、こんなカラス弁を作るお母さんなんていないよね。
真由が、タコさんウィンナーを口に運んでいる。
ゆかりが、おにぎりを食べている。
二人のお弁当が羨ましい。わたしのお弁当はカラス弁だなんて。
どんな味がするのかな? 食べても大丈夫だよね。わたしは、恐る恐る真っ黒なカラス弁に箸をつけた。
おぞましいカラスの顔をした海苔にわたしはお箸を刺した。すると、カラスの顔が崩れた。
カラスの顔がぐにゃぐにゃに崩れた。
こんなカラス弁なんて食べたくないけれど、食べないとゆかりと真由が心配してしまう。 そう思うと食べるしかない。
カラスなんて、カラスなんて、わたしは、嫌いだ。カラスなんて大嫌いだ!
カラスなんて、大嫌いだーーーー!!
わたしは、無理をしてカラス弁を食べた。
その味といえば、ごくありふれたご飯に海苔の味がした。梅干しを食べると酸っぱい。
それにしてもこれじゃあまったく栄養もないよ。だって、このお弁当はご飯と海苔と梅干しだけなのだから。
それはそうと、このお弁当は何のために作られたのだろうか?
ゆかりと真由は、わたしの質素なお弁当に同情したらしく、ゆかりがミートボールをそして真由がりんごをくれた。
ミートボールは甘辛くて、りんごはシャキシャキしていて甘酸っぱくて美味しかった。二人の優しさに涙が出そうになる。
気がつくと、カラスのお弁当箱は空っぽになりわたしの胃袋におさまっていた。
あのカラスを食べてやった。わたしは、そう思うと気分が良くなった。
黒いカラスなんて見たくない。ぐちゃぐちゃにして食べてやったんだから。
家に帰ると、わたしは、お弁当箱を流しに持っていく。
お母さんが、洗いものをしていたので、何気なく聞いてみる。
「お母さん、今日のお弁当なんだけど……その……」
「史砂ちゃん、お弁当美味しかった?」
お母さんは、こちらに振り返り笑顔を浮かべている。
あのカラス弁を美味しかったって聞くなんて、あれは何かの冗談だったの?
お母さんの表情を見る限り違うような気がする。やっぱり、わたしの思った通りの予感がする。
「お母さん、あのね、今日のお弁当の中身なんだった?」とわたしは尋ねる。
お母さんはなんて答えるだろうか。ドキドキドキドキと自分の心臓の音が聞こえる。
「変なこと聞くわね? お弁当食べたよね。中身は、ウィンナー、たまご焼きとかよくある感じのお弁当だったけど、気に入らなかったかしら?」
お母さんは、わたしの顔を見て言った。
「ううん、そんなことないよ。美味しかったよ」
やっぱりそうだった。
あのカラス弁当はお母さんが作ったものではなかった。
「史砂ちゃん、どうかしたの?」
「ううん、なんでもない……。お弁当ありがとう」
わたしは貼り付けた笑顔を浮かべた。
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