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裏腹
あと少しで家だ!
しおりを挟む神社の前をとぼとぼ歩きながらわたしは家路に着く。
猫がこちらに向かっててくてく歩いて来た。わたしは、猫の頭に手をやり、「君は呑気そうでいいね」と言って頭を撫でた。
猫は可愛らしくにゃ~と鳴いた。
じゃあねと猫に手を振り歩き始めると、わたしの目の前に一羽のカラスがいた。
そのカラスは、わたしのことをじっと眺めた。このカラス、このカラスは、そうだよ。
教室の窓から見えた、あのカラスに間違いないと思う。
どうして、わたしの目の前にこのカラスはいるの?
わたしは、怖くなりカラスを避けて歩こうとした。近寄らないでよ、わたしは何もしないからお願い。
そう心の中で、何度も近寄らないでと呟いた。カラスは、わたしから目を逸らさない。自分の心臓の音がドクンドクンと聞こえてきた。
ドクンドクン。
カラスが、わたしを見る。
ドクンドクン。
わたしは、そろりそろりと歩く。タイミングを見て一気に走ろう。
カラスと睨み合いだなんて。
わたしの方が怖じ気づいてるなんて。
さあ、走ろう。
今だ。
わたしは、一気に駆け出した。後ろは振り向かない。心臓がドキドキする。
カラスを相手にドキドキしているなんてと思うけれど、怖くて怖くて仕方がない。
もう、立ち止まらないで走って走り続けた。自分の心臓の音が、ドクンドクンと聞こえる。
ハァハァハァハァ息が切れる。
誰か、誰か通らないのかなと思うけれど誰一人歩いてはいない。
ハァハァハァハァ息が切れる。だけど走り続ける。だって、走らないとあのカラスが追いかけてきそうで立ち止まることなんて出来ない。
そろそろ家が見えてくるところまで辿り着いた。良かったとほっと胸を撫で下ろす。
ここまで来ると大丈夫だよね。
良かったと思うと、体の力が抜けた。その場に思わず座り込んでしまいそうになるけれど、駄目だ先を急ごう。
後、数分でわたしの家に着くんだから。
後少しだ。頑張ろう。
家が見えて来た。本当に良かった。さあ、帰ろう。わたしは、嬉しい気持ちになり、歩き出した。
今日は、新学期の始まりだったのでお昼はこれからだ。お昼ご飯は何かな? 短縮授業の日や休みの日は、お母さんの手作りのご飯が卓袱台に置かれている。
わくわくしながら玄関の引き戸を開けようとしたその時、黒い影がわたしの横を横切った。
あっ、あ……。
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