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わたしは悪魔それとも……

悪魔の囁き声は……

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「史砂、毎日のように願いを叶えてくださいとお前は祈っているな」

   と低くてだけど良く通る男性らしき声が聞こえてきた。

  誰!     誰が話しているの?

  わたしは、何処からこの声が聞こえてくるのかなと辺りをキョロキョロ見回したけれど、誰もいない。

  カラスが木の上に一羽とまっているだけだった。

  
  「うはははははっ~ふ、み、さ、わたしの姿は見えないだろう?」

  と、低くて良く通る声が笑いながら言った。

「だ、誰なの?」

   わたしは、恐怖におののきながら声を出した。

  体がガタガタ震えているのもよくわかる。

  低くくて良く通る声の主は、

「はははははっーーーーーーーーーー」

  と笑った。


  怯えているわたしに追い討ちをかけるように、その声は、

「ね、が、い、を叶えて、ほしいのだろう?」と言った。

   今、わたしの身に何が起こっているんだろうか……。

  わたしは、怖くて後退りをした。

   じりじりと後方に。

  
「史砂、何をそんなに怖がっているんだね?  君の願いを叶えてやろうと言っているんだがね」

  わたしの願いを叶えてくれるの……。

「それは、わたしのお兄ちゃんを生き返らせてくれるってことなのかな?」

  本当だとすればこれ以上嬉しいことはないけれど。

  わたしが、一番望んでいたことだから。そう、わたしが一番望んでいたことなんだから……。


  
  その時、風がびゅーっと吹いてわたしのスカートを翻した。

 そして、

「史砂、君の願いを叶えてやろう、ただし交換条件が一つある」

  と、その声は言った。

「交換条件が……。どんなことなの?」

  わたしの願いを叶えてくれるのであれば、たとえどんな交換条件であっても飲みたいなと思う。

「ハハハハハハハハハハハハッーーーーー」

  声の主は笑った。

「笑ってないで教えてよ」

  わたしは、叫んだ!

  
「ハハハハッ、ちょっと冗談が過ぎたようだな」

 と、声の主は言った。

「何なの?  教えてよ?」

  わたしは、目に見えぬ声の主に聞いた。

「教えて、ほ、し、い、かな?  史砂……」

「もちろんです」

   暫く沈黙があった後、

「ではでは、教えてあげよう。ハハハハハハハハハハハハッ」

  声の主が、笑うと風がまた、びゅーっと吹き荒れた。

  
  風がわたしの髪をなびかせ、スカートを翻すけれど、怖くなんてない。わたしは、歯を食いしばり、「早く教えてよ」と言った。

「史砂は、あわてんぼさんだな」

   目に見えぬ声の主は、わたしを焦らせ怯えさせて喜んでいるのだろうか?

  そして、暫く沈黙した後、声の主は、

「史砂、お前の友達を、大切なお兄ちゃんを生き返らせる為に犠牲にできるかな?」と、低くてゾクゾクする声で言った。

  
  友達を犠牲にするって、何?

  わたしの友達といえば、ゆかりに真由のことかな。

   そんな……。

  大切な二人を犠牲にするなんて、わたしには……。

  出来ない?   

「どうした?  史砂、お前はお兄ちゃんのためなら何だって出来るんじゃなかったかな?」

  あっ……。

  わたしは、確かに確かに、何だってするって言った。だけど……。

      だけど、わたしには。

「なぜ、黙っているんだ。そんな怯えた顔なんてして、ハハハハハハハハハハハハーッ」

  声の主はまた笑った。

  その声が低音で体の芯からゾクゾクとさせた。

  こんな声に惑わされては駄目だと思う気持ちと、本当にお兄ちゃんを生き返らせてくれるのであればと思う悪魔的な気持ちが、わたしの心の中に渦巻いた。

「本当にお兄ちゃんを生き返らせてくれるの?」

  わたしは、声の主に思わず聞いてしまった。

  
「もちろん生き返らせてやるぞ!  それが、史砂、お前の本当の望みであるのであれば」

  わたしの本当の望み?     

   それは、

  わたしの望みは、そう一つしかない。

「わたしのお兄ちゃんを生き返らせて」なのだ。

   だけど、ゆかりや真由に何かあっては困る。だって、わたしのことを支えてくれているかけがえのない友達なのだから。

と、その時、ひんやりとした風がわたしの頬をかすめる。

                     そして……。

『史砂、お兄ちゃんの笑顔を見たくないのか?』と、その風に乗って悪魔の囁き声が聞こえてきた。

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