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わたしの願いは一つ

友君

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ーーー

「やっほ~史砂ちゃん、ゆかりちゃん、真由ちゃ~ん!」

  と、大きな声が聞こえてきた。制服姿で自転車に跨がる男の子がこちらに向かって来る。

「あ、友《とも》君だ~」とゆかりが手を振った。

「やっ、みんな元気かい?」

  友君は、元気なまるで向日葵のような笑顔をわたし達に向けこちらに向かってきた。

  友君は、お兄ちゃんと同級生だった男の子だ。本当なら、お兄ちゃんも友君と同じブレザーの制服に身を包んでいたんだろな。

  それを思うと泣きそうになる。

  
「君達、元気だよな。こんなに暑いのにそんなところに座って、お尻は熱くないかい?」

  友君が、わたし達の座る石段を指差して言った。

「ちょっと熱いけど気持ちいいよ」

  わたしは笑って答えた。

「史砂ちゃんも元気だね。良かった良かった」

  友君は、目を細めて笑った。その笑顔はとても優しかった。

  
  友君は、お兄ちゃんが亡くなって塞ぎ込んでいるわたしに優しく接してくれた。

  友君だって親友が亡くなり哀しいはずなのに……。

  ゆかりや真由だってそうだ。

  わたしの周りにいる人達は、みんな優しい。だから、落ち込むのはよそうと思った。

 だけど、やっぱり辛くて哀しくて思ったようにはいかなかった。

  そんな時……。


  
  展望台の話を聞いた。

  これは、偶然聞いたのだけど、学校のトイレの個室に入っている時に、女の子達が話していた。

「どうしても叶えたいことがある時は、展望台の下でお祈りをすると願いが叶うらしいよ」

「それは、どんなことでもかな?」

「うん、そうみたいだよ。良いことも悪いことも叶うのかもしれないね。願いを叶えてくれる、何かが出てくるみたいだよ。ちょっと怖いけどね!  面白そうだね」

  わたしは、トイレの個室でその話を聞き、『これだ!』と思った。


  
  わたしの願いは、一つしかない。

  それはもちろん、わたしのお兄ちゃんを生き返らせてくださいだ。

  お兄ちゃんが生き返ってくれるのであれば、わたしは悪魔にだってなれる。

  どんなことでもできるはずなんだから。

  わたしは、悪い子にだってなれる。

「史砂……」

  わたしが、物思いにふけていると、ゆかりがわたしを呼んだ。
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