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わたしの中の英美利
チーク
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「あ、うん。昨日たまたまスーパーで見かけて買っちゃった」
「へぇースーパーでも売っているんだね」
英美利ちゃんは顎に人差し指を当てて首を傾げた。その表情は可愛らしくてそれこそ正にテレビコマーシャルの中から出てきた天使のように見えた。ただ棘はあるけどね。
「うん、わたしもまさかスーパーに売っているなんて思ってなかったからびっくりしたよ~」
「でも嬉しいな~このチークさっそく流行ってるのかな?」
英美利ちゃんはにっこりと微笑んだ。その表情は本当に嬉しそうに見えた。
「英美利ちゃん、なんだか嬉しそうだね」
「嬉しいわよ。だって、ずっと化粧品のコマーシャルがやりたくてウズウズしていたんだからね」
英美利ちゃんはフンと鼻を鳴らした。その姿はなんだか犬のようにも見えた。
「ちょっと葉月ちゃん、どうして笑っているのかな?」
「あ、ううん笑っていないよ~」
英美利ちゃんには美しさと可愛さとそれからやっぱりコメディ女優として活躍しているだけあり面白さがある。
「あのね、笑っていないってめちゃくちゃ肩まで震わせて笑っているよね」
英美利ちゃんは頬をぷくっと膨らませた。
「あはは、ごめんね英美利ちゃん」
わたしは声を出して笑ってしまった。
「ふん、葉月ちゃんってばそんなに笑わなくてもいいのにね。まあ、いいわよ。今日のわたしは機嫌がいいからね」
英美利ちゃんはそう言って薔薇のような華やかな笑顔を浮かべた。
「英美利ちゃん良かったね。化粧品のコマーシャル最高に可愛かったよ」
「うふふ、ありがとう~わたしもあのコマーシャルお気に入りなんだよね」
英美利ちゃんはふわふわの髪の毛をかきあげ、そしてテレビコマーシャルを再現するかのように「わたし英美利と綺麗な時間を過ごしましょう」と言って頬に両手を当てて微笑んだ。
「うふふ、なんてね。どうかしら?」
「あ、うん、最高に可愛いよ」
この言葉に嘘はないけれど、可愛くないなんてとても言える雰囲気ではないことも確かなのだから困ったものだ。有無を言わせない中川英美利だ。
「ありがとう~葉月ちゃん。それから葉月ちゃんもそのチーク似合っていて可愛いよ」
英美利ちゃんがウィンクをした。ウィンクが似合う人なんて中川英美利ぐらいだ。
「あ、えっ……ありがとう」
わたしは戸惑いながら答えた。英美利ちゃんに似合うと言われても嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになる。
それから英美利ちゃんは化粧品のコマーシャルの話を続けた。
よほど嬉しかったのか英美利ちゃんは終始笑顔を浮かべていた。やりたかった仕事を手に入れた人の笑顔はキラキラ輝いている。
わたしもいつか英美利ちゃんのように笑える日が来るのだろうか。分からないけれど、そんな日がいつか来ると信じていたい。諦めたら何も手に入れることはできないのだから。
「英美利様~化粧品のコマーシャル観ましたよ~」
雪本さんの元気な声が聞こえてきた。そして、バーンと扉が開き雪本さんが部屋に入ってきた。
「あら、雪本さんおはよう~」
「英美利様、おはようございます。化粧品のコマーシャル観ましたよ。見てくださいお揃いですよ」
雪本さんは自分のピンク色に染まったほっぺたを指差して言った。
「うふふ、雪本さんもわたし英美利と綺麗な時間を過ごしたいのね」
「はい、もちろんですよ~英美利様。夢が叶いましたね。おめでとうございます」
雪本さんはとびっきりの笑顔を浮かべた。
「雪本さん、ありがとう」
英美利ちゃんの笑顔はぱーと弾けた。
「英美利様のその笑顔が皆を元気にしますよ」
雪本さんの言う通りかもしれない。きっと何人もの人が英美利ちゃんの笑顔で元気になれていることだろう。
その時、ババーンと部屋の扉が開いた。
「お~い、英美利。寝てるのか~起きろよ」
浜本さんがドカドカと部屋に入ってきたのだった。
「ちょっと浜本失礼ね。わたしはちゃんと起きてるよ。それに女の子の家に勝手に入って来ないでよね」
英美利ちゃんは浜本さんをギロリと睨んだ。
「えっ? 女の子ってどこにいるんだ。うん、どこにいますか?」
「ふざけないでよ」
「あはは、ごめんよ。玄関の扉が開いていたからついノックするの忘れてしまったぜ」
二人の会話はいつも漫才を見ているようで楽しい。
浜本さんみたいなお兄さんがいると毎日退屈しないだろうな。英美利ちゃんはマネージャーにも恵まれているのではと思う。英美利ちゃん本人は気づいていないだろうけれど。
「ふふふっ、英美利様と浜本さんのコンビは最高ですね」
「はい、わたしも今、そう思っていました」
わたしと雪本さんは顔を見合わせて笑った。
「あ、そう言えば……」
「雪本さんどうしたんですか?」
「玄関の扉を閉めなかったのはわたしでした。英美利様のチークが嬉しくてもうそのことで頭がいっぱいでしたよ」
雪本さんはあははと笑い頭を掻いた。
「ちょっと雪本さんだったの? 浜本みたいな奴が勝手に入って来るんだから気をつけてね」
「英美利様、すみません~」
雪本さんはぺこりと頭を下げた。
「おい、英美利。浜本みたいな奴ってなんだよ~」
「あら、言葉通りよ」
英美利ちゃんは口元に手を当てて笑った。
「へぇースーパーでも売っているんだね」
英美利ちゃんは顎に人差し指を当てて首を傾げた。その表情は可愛らしくてそれこそ正にテレビコマーシャルの中から出てきた天使のように見えた。ただ棘はあるけどね。
「うん、わたしもまさかスーパーに売っているなんて思ってなかったからびっくりしたよ~」
「でも嬉しいな~このチークさっそく流行ってるのかな?」
英美利ちゃんはにっこりと微笑んだ。その表情は本当に嬉しそうに見えた。
「英美利ちゃん、なんだか嬉しそうだね」
「嬉しいわよ。だって、ずっと化粧品のコマーシャルがやりたくてウズウズしていたんだからね」
英美利ちゃんはフンと鼻を鳴らした。その姿はなんだか犬のようにも見えた。
「ちょっと葉月ちゃん、どうして笑っているのかな?」
「あ、ううん笑っていないよ~」
英美利ちゃんには美しさと可愛さとそれからやっぱりコメディ女優として活躍しているだけあり面白さがある。
「あのね、笑っていないってめちゃくちゃ肩まで震わせて笑っているよね」
英美利ちゃんは頬をぷくっと膨らませた。
「あはは、ごめんね英美利ちゃん」
わたしは声を出して笑ってしまった。
「ふん、葉月ちゃんってばそんなに笑わなくてもいいのにね。まあ、いいわよ。今日のわたしは機嫌がいいからね」
英美利ちゃんはそう言って薔薇のような華やかな笑顔を浮かべた。
「英美利ちゃん良かったね。化粧品のコマーシャル最高に可愛かったよ」
「うふふ、ありがとう~わたしもあのコマーシャルお気に入りなんだよね」
英美利ちゃんはふわふわの髪の毛をかきあげ、そしてテレビコマーシャルを再現するかのように「わたし英美利と綺麗な時間を過ごしましょう」と言って頬に両手を当てて微笑んだ。
「うふふ、なんてね。どうかしら?」
「あ、うん、最高に可愛いよ」
この言葉に嘘はないけれど、可愛くないなんてとても言える雰囲気ではないことも確かなのだから困ったものだ。有無を言わせない中川英美利だ。
「ありがとう~葉月ちゃん。それから葉月ちゃんもそのチーク似合っていて可愛いよ」
英美利ちゃんがウィンクをした。ウィンクが似合う人なんて中川英美利ぐらいだ。
「あ、えっ……ありがとう」
わたしは戸惑いながら答えた。英美利ちゃんに似合うと言われても嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになる。
それから英美利ちゃんは化粧品のコマーシャルの話を続けた。
よほど嬉しかったのか英美利ちゃんは終始笑顔を浮かべていた。やりたかった仕事を手に入れた人の笑顔はキラキラ輝いている。
わたしもいつか英美利ちゃんのように笑える日が来るのだろうか。分からないけれど、そんな日がいつか来ると信じていたい。諦めたら何も手に入れることはできないのだから。
「英美利様~化粧品のコマーシャル観ましたよ~」
雪本さんの元気な声が聞こえてきた。そして、バーンと扉が開き雪本さんが部屋に入ってきた。
「あら、雪本さんおはよう~」
「英美利様、おはようございます。化粧品のコマーシャル観ましたよ。見てくださいお揃いですよ」
雪本さんは自分のピンク色に染まったほっぺたを指差して言った。
「うふふ、雪本さんもわたし英美利と綺麗な時間を過ごしたいのね」
「はい、もちろんですよ~英美利様。夢が叶いましたね。おめでとうございます」
雪本さんはとびっきりの笑顔を浮かべた。
「雪本さん、ありがとう」
英美利ちゃんの笑顔はぱーと弾けた。
「英美利様のその笑顔が皆を元気にしますよ」
雪本さんの言う通りかもしれない。きっと何人もの人が英美利ちゃんの笑顔で元気になれていることだろう。
その時、ババーンと部屋の扉が開いた。
「お~い、英美利。寝てるのか~起きろよ」
浜本さんがドカドカと部屋に入ってきたのだった。
「ちょっと浜本失礼ね。わたしはちゃんと起きてるよ。それに女の子の家に勝手に入って来ないでよね」
英美利ちゃんは浜本さんをギロリと睨んだ。
「えっ? 女の子ってどこにいるんだ。うん、どこにいますか?」
「ふざけないでよ」
「あはは、ごめんよ。玄関の扉が開いていたからついノックするの忘れてしまったぜ」
二人の会話はいつも漫才を見ているようで楽しい。
浜本さんみたいなお兄さんがいると毎日退屈しないだろうな。英美利ちゃんはマネージャーにも恵まれているのではと思う。英美利ちゃん本人は気づいていないだろうけれど。
「ふふふっ、英美利様と浜本さんのコンビは最高ですね」
「はい、わたしも今、そう思っていました」
わたしと雪本さんは顔を見合わせて笑った。
「あ、そう言えば……」
「雪本さんどうしたんですか?」
「玄関の扉を閉めなかったのはわたしでした。英美利様のチークが嬉しくてもうそのことで頭がいっぱいでしたよ」
雪本さんはあははと笑い頭を掻いた。
「ちょっと雪本さんだったの? 浜本みたいな奴が勝手に入って来るんだから気をつけてね」
「英美利様、すみません~」
雪本さんはぺこりと頭を下げた。
「おい、英美利。浜本みたいな奴ってなんだよ~」
「あら、言葉通りよ」
英美利ちゃんは口元に手を当てて笑った。
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