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お姉ちゃん
少しずつ
しおりを挟むテレビの画面の中には綺麗な英美利ちゃんと泥にまみれてお世辞にも綺麗だとは言えない英美利ちゃんが存在する。
きっと、綺麗な英美利ちゃんもそうじゃない英美利ちゃんもどちらも本当の英美利ちゃんだと思う。
そう人の心も……。
わたしも明るくて元気で可愛らしい葉月ちゃんだと言われたりもする。けれど本当のわたしは、悩みが多くて卑屈にもなる。
美人で成功している英美利ちゃんに嫉妬だってする。仕事がなくてどんよりと落ち込む。それから何よりも大好きだったお姉ちゃんのことで悲しい気持ちになった。
わたしはテレビの画面を見つめるお姉ちゃんに目を向けた。お姉ちゃんはテレビの画面を見つめケラケラと笑っている。
良かった。少しずつ昔の元気だった頃のお姉ちゃんが戻ってきたのかもしれない。
そんなお姉ちゃんを眺めていると嬉しくて涙が出そうになった。
ずっと、幼い頃から一番近くにいて大好きだったお姉ちゃん。
それなのにお姉ちゃんは、わたしのことなんかよりも学校の友達を大切にした。一緒に遊ぼうと言っても小学生の子供なんかと遊べないよと中学生になったお姉ちゃんは言った。
自分だって子供のクセにと思ってわたしは膨れた。もうお姉ちゃんなんか知らないんだからと何度も思った。
それでもわたしは、お姉ちゃんのことは嫌いにはなれなかった。
「お姉ちゃん、英美利ちゃんのコメディドラマを一緒に観てくれてありがとう」
「えっ!」
振り返ったお姉ちゃんは目をぱちくりさせた。
「わたし、お姉ちゃんと一緒に英美利ちゃんのコメディドラマを観て笑えて嬉しかったよ」
わたしは、キョトンとしているお姉ちゃんに笑いかけた。
「葉月ちゃん……どうかしちゃったの?」
お姉ちゃんは、お箸で唐揚げをブスブスと刺しながら言った。
「お姉ちゃんと昔のようにまた仲良くできたらいいなと思っているんだよ。今ね、テレビを観ていて思い出したんだ。わたしは、お姉ちゃんのことが大好きだってことをね」
「葉月ちゃん……熱でもあるんじゃないの?
横になった方がいいかもよ」
お姉ちゃんは、唐揚げをお箸でブスブスと刺しながら眉間に皺を寄せた。
「熱なんかないもん」
わたしは、お姉ちゃんに近づき自分の腕をお姉ちゃんの腕に絡ませた。
「……は、葉月ちゃん! 気持ち悪いんだけど……離してよ」
お姉ちゃんの眉間の皺はさらに深くなった。
「嫌だよ。離さないもんね」
わたしは、にっこりと微笑んだ。
「葉月ちゃん離してよ! 気持ち悪いってば~」
お姉ちゃんはそう言いながらもわたしの腕を振り払ったりはしなかった。
「うふふ、お姉ちゃん幼い頃を思い出すね。こうしてテレビの前に座ってドラマやアニメを一緒に観て感想を言い合ったね。楽しかったな~」
「そ、そんなこともあったね……」
お姉ちゃんは、チラリとわたしの顔を見て言った。
そのお姉ちゃんの表情は眉間に皺は寄ったままではあるけれど口元が緩んでいるように見える。もう素直じゃないんだから。
「学校から帰ってきて観たアニメも夏休みに観たアニメも楽しかったね」
あの頃は本当に楽しかった。悩みなんてなかったな。心配事は今日のお菓子は何かなぐらいだった。
わたしは、絡めていた腕にぎゅっと力を入れた。お姉ちゃんの肌の温もりを感じああ、お姉ちゃんがここにいるんだなと思うと幸せな気持ちになれた。
「うふふ、昔の二人を見ているようだわ」
それまで黙っていたお母さんが言った。
そのお母さんの表情は頬が緩み幸せそうだ。わたしとお姉ちゃんのことでお母さんも悩んでいたのかなと思う。それとお母さん自身とお姉ちゃんとのことも。
「うん、わたしとお姉ちゃんは仲良しだよ~ねっ、お姉ちゃん」
「えっ! ……それは」
お姉ちゃんは、わたしから目を逸らしお箸でブスブスと刺した唐揚げをじっと見ている。
「仲良しなんだもん。お姉ちゃんがわたしのことを嫌ってもこれからは時々帰ってきてお姉ちゃんに付きまとうからね。覚悟しておいてね!」
わたしは、お姉ちゃんの顔を覗き込み言った。
「……か、勝手にしたら」
お姉ちゃんは嫌そうに顔をおもいっきりしかめている。だけど、本当はそんなに嫌じゃないんだよね。だって、わたしが絡ませた腕はそのままなのだから。
なんだか可笑しくなってわたしはクスッと笑ってしまった。
「な、何が可笑しいのよ!」
お姉ちゃんは、わたしの絡めていた腕を振り払い言った。
「ううん、何でもないよ」
わたしは、お姉ちゃんの顔をじっと見つめて言った。
腕は振り払われてしまったけれど一歩前進したかなと思う。そう思うと嬉しくなり頬が緩んだ。
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