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奈美ちゃんと英美利ちゃん

またね

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  英美利ちゃんの拗ねた表情はちょっと可愛らしい。だけど薔薇のように棘がありやっぱり怖くて落ち着かない。

  そんなことを考えながら英美利ちゃんを眺めていると、

「わたし、家に帰って英美利ちゃんの馬鹿らしいコメディドラマでも観ようかな~」

  そう言ってお姉ちゃんがむくりと立ち上がった。

「わたしの馬鹿らしいコメディドラマをですって!」

  英美利ちゃんはお姉ちゃんを見上げキッと睨み付けた。

「うん、英美利ちゃんの滑稽なコメディドラマを観るんだよ。そして、大笑いしてやるんだからね」

  お姉ちゃんは、あははと笑いそれから、「奈美ちゃんのキラキラと輝くドラマを観るのはまだ眩しすぎるけど、英美利ちゃんのコメディドラマだったら大丈夫そうだよ」と言った。

「ちょっと言い方が気に入らないけど……どうぞご勝手に」

「うん、笑わせてもらうよ。じゃあ、わたしは帰ろうかな」

「え?  お姉ちゃんってば帰るの?」

「うん。帰るよ。じゃあね~」

「あの……順子ちゃん」

  それまで黙っていた奈美ちゃんが口を開いた。


  
  お姉ちゃんは奈美ちゃんの声に振り返った。

「わたしも順子ちゃんと英美利ちゃんの泥まみれになるコメディドラマを観たいな。今日じゃなくてもいいから一緒に観ようね」

  奈美ちゃんは優しくてそれでいて力強い声で言った。

「……」

「わたしね、英美利ちゃんの泥まみれになる姿が好きなんだ!  ねっ、だから今度一緒に観ようね」

「あらあら、奈美ちゃんも悪趣味ね。気が合うね」

  お姉ちゃんはニヤリと笑った。

「うふふ、気が合うね!」

「そうだね。じゃあ、奈美ちゃん気が向いたら連絡するよ」

  お姉ちゃんはそう言ってにっこりと笑ったかと思うと手を振り歩き出していた。

  これは一歩前進したのかもと思うとわたしは嬉しくなり頬が緩んだ。

  奈美ちゃんもニコニコと微笑んでいた。

  そして、英美利ちゃんの方に目を向けると、

「がるる~」と吠えていた。その表情が美しい猛獣のように見えてなんだか可笑しくなった。


  
  お姉ちゃんが帰ったあと、わたし達三人は夕日が沈むまで公園で話をした。

  幼い頃の話をすると懐かしくてあの頃に戻ったような気持ちになる。好きだった歌や遊びなど話は尽きない。

  お姉ちゃんも一緒に話をするともっと楽しいのになと思った。でも今はきっと時期尚早なんだよね。

  何も焦ることはないのだ。ゆっくりとお姉ちゃんの心の闇が晴れるのを待とう。

  雪本さんが作ってくれたおにぎりも奈美ちゃんの手作りお弁当も美味しかった。

「お腹がいっぱいになったね」

  わたしは、オレンジ色の夕焼け空を見上げながら言った。

「うん、お腹がいっぱいになると幸せだね」

 「うん、わたしも幸せだよ」

   英美利ちゃんと奈美ちゃんの横顔は夕日に照らされとても綺麗だった。これだけ美しい二人にも悩みがあるんだもんね。

  小さなことにクヨクヨしないで前を向こう。今日も一日が終わろうとしている。

  綺麗な夕焼け空をわたし達三人は眺めた。あの頃のわたし達がふと見えたような気がした。
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