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英美利ちゃんは好きだけど嫌い

4 お茶会

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  英美利ちゃんがテーブルに置いたティーポットから、ふわふわと良い香りが漂った。

「ピーチティーだよ~良い香りでしょう?」

  英美利ちゃんは、にっこりと笑った。

「はい、英美利様!  素敵な香りでございます。ふんわりと甘い香りがまるで、英美利様のようです」

  雪本さんは、両手を広げて大袈裟に言った。

「あら、そうかな?」

  英美利ちゃんは、首を傾げながら、ふわりと甘い香りのピーチティーをティーカップに注いだ。

  わたしは、なんだか可笑しくなってしまい、笑ったらダメよ。笑うんじゃないよと、自分に言い聞かせるも……。

  フフフッと笑ってしまった。

  だって、英美利ちゃんはふんわり甘い香りって感じではなく、棘がある薔薇のような上手く表現はできないけれど、強くて自信に満ち溢れた香りというイメージなのだから。

「成田さん、どうして笑っているのですか?」

  雪本さんは、わたしをギロリとわたしを睨んだ。

「いえ、何でもありません」とわたしは答えた。

  
  雪本さんは納得いかない様子でわたしを見ていたけれど、英美利ちゃんが「さあ、きっと美味しいよ~飲んで」と言ったのでわたしを睨むのをやめてくれた。

  わたしは胸を撫で下ろし、薔薇柄のティーカップに注がれたピーチティーに手を伸ばした。

  ピーチティーに口をつけると桃の優しい香りにホッとした。黒く濁っていたわたしの心がほぐれる。

「うん、美味しいよ~」

  わたしは、にっこりと微笑んだ。

「良かった。ピーチティーは美味しいでしょう」

  英美利ちゃんは薔薇のような笑顔を浮かべピーチティーを飲んだ。その姿はやはり美しくて見とれてしまった。

「英美利様。ピーチティーは良い香りで癒されますよ」

  雪本さんもにっこりと笑った。

  こうして、わたし達は楽しいお茶の時間を過ごしたのだった。

  
  お皿に盛られたバタークッキーも食べた。バターがたっぷりで濃厚だ。なんだか懐かしい味がした。

  ピーチティーをもう一口飲んだ。うん、ふわりと良い香りだ。そして、バタークッキーに手を伸ばしもう一枚食べた。まろやかでやっぱり懐かしい味がするなと思った瞬間、幼い日を思い出した。

  わたしとお姉ちゃんは、お母さんが焼いてくれるバタークッキーが大好きだった。

『ちょっと、お姉ちゃんそのバタークッキーの方が大きいよ。ずるいよ!』

  わたしが膨れるとお姉ちゃんは、

『そっかな?  葉月ちゃんのバタークッキーの方が大きいよ』と言った。

『そんなことないよ。お姉ちゃんのバタークッキーの方が大きいよ~』

  わたしは、頬を最大限に膨らませて文句を言うとお姉ちゃんは、

『そっかな?  じゃあ、葉月ちゃん、交換してあげるよ』

  お姉ちゃんは、にっこり笑いクッキーを交換してくれた。確かに優しいお姉ちゃんは、存在していた。あの日のお姉ちゃんは、どこに行ってしまったのだろうか。

  わたしは、クッキーを食べながらそんなことを考えた。
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