18 / 86
お姉ちゃんと英美利
2
しおりを挟む英美利ちゃんの部屋は自分の写真を壁一面貼り付けこれこそ正にナルシスト、そして、床には高級そうな服が散乱しているのだからナルシスト&汚部屋だったのだ。
「さあ、英美利様のお部屋を掃除しますよ。あら、成田さんどうしましたか? 固まっているみたいですが」
雪本さんは、わたしの顔を可笑しそうに見て言った。
「……いえ、そのなんというか壁の写真に驚いたのと床にたくさんの服が散乱しているなと思ってびっくりしてしまいました」
わたしは思ったことを正直に答えた。
「ふふっ、まあちょっと散らかってはいますけどそれも愛嬌ですよ」
なんて言ってクスクス笑う雪本さん。
それから、わたしと雪本さんは床にぐちゃぐちゃに積まれている服を片付けた。
「あっ、このスカート」
「成田さん、どうしましたか?」
「いえ、何でもありません」
思わず声を上げてしまったのは、わたしの欲しかったあの桜色のスカートがベッドの上にあるからだ。
英美利ちゃんはこの桜色のスカートを美しく穿きこなしていた。
それは、羨ましいのと同時にわたしが欲しくてだけど買えなかったスカートをベッドの上に放置しているなんて、なんだか頭にくる。
わたしは、英美利ちゃんの服を片付けながらお金持ちは違うなと思った。庶民のわたしが欲しくても手に入らない物を、英美利ちゃんはあっさり手に入れることができる。
そして、あっさり手に入れた素敵な服をぐちゃぐちゃに放置している。
触れると柔らかい肌触りの服。わたしだったら粗末にしないで大切にハンガーに掛けうっとりと眺めるだろうな。
そして、全身鏡の前で服を着て微笑む。
そう思うとなんだかイライラしてきて服をギュッと掴んだ。駄目だ、これは嫉妬だ。自分が英美利ちゃんのようにキラキラと輝けないから嫉妬しているんだ。
わたしは、明るくて元気な葉月ちゃんと言われていたのにいつからこんなわたしになってしまったのかなと考えると悲しくなった。
でも、だけどそれだけではない……。
考えれば考えるほど憂鬱な気持ちになる。実家に行きお姉ちゃんを探さなければならないなんて。
英美利ちゃん宅の掃除を終えたわたしは、雪本さんにお疲れ様でしたと挨拶をして桜が舞う川沿いの桜並木をとぼとぼと歩く。
実家には行きたくない。だって、お姉ちゃんの顔なんて見たくない。
だけど、行くしかない。行かなければなんて薄情な子なんだとお母さんが言うに決まっているのだから。
わたしは、荷物を部屋に一度置いてから実家に行こうと思い、川沿いの道を左に曲がりまっすぐ歩きひとり暮しのわたしのマンションに着いた。
エレベーターに乗り三階のボタンを押して部屋に向かう。
三階に着きエレベーターから降りると、
うわぁーん、うわぁーん、うわぁーんとけたたましい声が聞こえてきた。
この声は……。嫌な予感がした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
僕の名は。~my name~
バーニー
ライト文芸
「名前にはその人の過去が保存されている」
名前占いで言う、運が良い名前、運が悪い名前があるように、人の名前にはその人がこれまでどんな人生を送ってきたのかが保存される。そして本人は、脳ではなく、その名前に記録された「過去」を読み込むことで自己を認識している。姓名変更師が行うのは、その名前に保存された過去を改変し、その人を幸せにすることだった。
僕も、先日、その姓名変更師の世話になった。確か、「首吊り自殺をしようとした過去」を消去してほしかったんだ。けれど、過去の改変は失敗する。僕は過去の大半を失い、それと同時に、自分の名前を失った。
僕の名前の復元を行うべくやってきたのは、凄腕ながらも、高飛車な態度のため、会社から厄介者扱いをされている皆月舞子という女だった。僕は皆月舞子と共に、自分の名前を取り戻すべく、過去を探る旅を始める。
だけど、復元されるのは、悲惨な過去ばかりで…。
君と30日のまた明日
黒蝶
ライト文芸
「あと30日、頑張っても駄目なら…」
森川彩(もりかわ あや)は希望を持ちながら生きていた。
その一方で、穂村奏多(ほむら そうた)は絶望を抱えて生きていた。
これは、一見正反対なふたりが織りなす30日間の話。
※自傷行為・自殺をほのめかす表現があります。
海を盗む女とアルゴリズムの太陽
まさかのまさかり
ライト文芸
気づいた時にはコンテナ船の甲板の上。
ここは何処?太平洋。
なんで?自分で乗ってきたんだよ。
答える女はウメちゃんと名乗った。
海賊を名乗るウメちゃんと工場の技術係のユウキの海賊ミステリー活劇。になるかもしれない話。
百々五十六の小問集合
百々 五十六
ライト文芸
不定期に短編を上げるよ
ランキング頑張りたい!!!
作品内で、章分けが必要ないような作品は全て、ここに入れていきます。
毎日投稿頑張るのでぜひぜひ、いいね、しおり、お気に入り登録、よろしくお願いします。
ただ美しく……
桐条京介
ライト文芸
奪われるだけの人生なんてたくさんだ!
他者より容姿が劣ってると言われながらも、自分は自分だと人生を歩んできた東雲杏理。けれど、そんな彼女のささやかな幸せが無残に壊される。
幸せな人生を送るためには、美しくなるしかない。そんなふうに考えた杏理は、親友や家族とも離れて、整形という道を選ぶ。
度重なる試練の果てに、最高の美しさを追い求める杏理。そんな彼女の前に、自分を傷つけた人々が現れる。ひとりひとりに復讐し、過去の恨みを晴らすと同時に、杏理は新たな自分へと変わっていく。
そんな彼女が、最後に見つけたものは――。
※小説家になろう他との重複投稿作品です。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
星降る夜の、空の下
高嶺 蒼
ライト文芸
高校卒業から10年目の同窓会。
見知らぬ美女が現れてざわめく会場。
ただ1人、主人公だけはその美女が誰か気が付いて、驚きに目を見開く。
果たしてその美女の正体とは……?
monogataryというサイトにて、「それ、それずーっと言って欲しかったの
」というお題で書いた短編です。
立花家へようこそ!
由奈(YUNA)
ライト文芸
私が出会ったのは立花家の7人家族でした・・・――――
これは、内気な私が成長していく物語。
親の仕事の都合でお世話になる事になった立花家は、楽しくて、暖かくて、とっても優しい人達が暮らす家でした。
隣の古道具屋さん
雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。
幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。
そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。
修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる