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いよいよ始まる
仕事も大変だ
しおりを挟む洗い物をするだけでこんなに疲れるなんて思ってもいなかった。浜本さんの『雪本さんに負けないでくださいね』と言った言葉の意味はもしかしたらこれだったのかも知れない。
雪本さんは鬼のようだ。
わたしは、シンクを洗ったスポンジを絞り溜め息をついた。
「あら、成田さ~ん! 溜め息なんてついてどうしたのかしら?」
雪本さんは、スポンジをギューッ絞るわたしの顔を覗き込みながら言った。どう考えても雪本さんあなたのせいじゃないのと思うけれど恐ろしくて口には出せない。
「成田さん疲れた顔してますね。そうだ、お茶を淹れるからその辺りに座っていて」
雪本さんはそう言ったかと思うとやかんを火にかけた。
「……ありがとうございます」
お茶を淹れてくれるなんて雪本さんは意外と優しいのかな。そうであれば嬉しいのだけど。
わたしは椅子に腰を掛けた。今日の仕事はまだ洗い物しかしていないのに疲れたなとテーブルに頬杖をつく。
雪本さんはどんな人なのかまだよく分からないけれど上手くやっていけるのかなと心配になる。わたしが最近まで働いていたコールセンターの仕事は相手の顔が見えないお客さんの対応であり大変ではあったが、それでもまだ気楽だったかなと思う。
雪本さんと一対一で仕事をする方が精神的にストレスが溜まるし、それに家事の仕事は体力的にも疲れる。
「成田さ~ん、お茶を淹れましたよ。あら、頬杖なんてついてお行儀が悪いですね」
雪本さんは香りの良い紅茶のティーカップをテーブルの上にコトンと置いた。
「すみません……ありがとうございます」
わたしは、頬杖をつくのをやめてぺこりと頭を下げた。
これから先、雪本さんに謝り続けないとならないのかな。泣きたくなりながら良い香りのする紅茶のティーカップを見つめた。
「アップルティーですよ」
雪本さんがにっこりと微笑んだ。
「美味しそう、いただきます」
わたしはお礼を言って良い香りのするアップルティーを飲んだ。すると口の中には甘酸っぱいリンゴの香りがほわほわと広がった。
「良い香りがしてとても美味しいです」
わたしの目の前に腰を下ろした雪本さんもティーカップを口に運びアップルティーを飲み「ふふっ、それは良かった。甘酸っぱ~い香りがするでしょ」と言って微笑んだ。
そのほんわかとした笑顔の裏に悪魔がチラチラと見え隠れする。そう思ってしまうのはわたしの性格がひねくれているからだろうか。
「……はい」
「温かい飲み物を飲んで一息つけたでしょ。さあ、このあとは英美利様のお部屋の掃除の続きをするわよ」
雪本さんはにっと笑い腕まくりをした。
「はい。頑張ります」
わたしは急いで残りのアップルティーを飲み干した。
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