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いよいよ始まる
バナナとリンゴが机の上から同時に滑り落ちた
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朝は簡単な朝食としてバナナとリンゴを食べた。バナナは手軽に食べられて栄養が豊富で仕事にも集中できそうだし、リンゴは医者を遠ざけるという格言もあるらしい。
「よし、頑張って働くぞ! 時給千六百円だもんね」
わたしは、胸の前に握りこぶしを作り気合いを入れた。昨夜はお姉ちゃんが出てくる嫌な夢を見たけれどバナナとリンゴのおかげで元気が出てきた。わたしってやっぱり単純だなと思う。
全身鏡の前に立ち身だしなみを整える。前髪をまっすぐ綺麗に下ろし髪の毛をきゅっと一つに結ぶ。
それから鞄の中身を確認する。エプロンもちゃんと入っている。マニュアルにはエプロンは貸すこともできるとあったけれどやっぱり自分のエプロンが良いなと思い持参することにした。
「いってきま~す」
わたしは、誰もいない部屋に向かって挨拶をする。新しい仕事はいつでも不安と期待が入り混じる。頑張って働こう。
玄関の扉を閉めようとしたその時、
バナナとリンゴが机の上から同時に滑り落ちた。
わたしは、慌てて部屋に戻り床に転がっているバナナとリンゴを拾い元の位置に戻す。どうして転がり落ちたのかなと不思議に思った。なんだか縁起が悪いような気もするけれど、まぁいいか。
それより急がないと遅刻してしまう。
今度こそいってきま~すと玄関の扉を閉めた。
外に出ると春の太陽がキラキラと輝いていた。ぽかぽかと暖かくて幸せな気持ちになる。このまま、どこかに出かけたいなと思うけれどそうもいかない。
桜の花びらがふわふわと風に吹かれて舞っている。まるで春の雪みたいに見える。さらさらと雪のように舞う花びらはとても綺麗だ。
このままずっと幸せな気持ちが続くと思ったのだけど。
ーーーー
中川家の豪邸を見上げる。やっぱり英美利ちゃんの家は立派だ。今日も門柱に取りつけられているインターホンをえいやと押した。
「はーい」とインターホン越しに英美利ちゃんの声が聞こえてきた。
「おはようございます。葉月です」
「あら、葉月ちゃんね。どうぞ、門を開けるから入ってきて」
今回も前回と同様に門がギーギーッと自動的に開いた。わたしは中に入る。
綺麗な春の花が咲き誇っているお庭も広くて小さな公園を思わせる。わたしとたった二つしか年が違わない女性の住いがこれだなんて英美利ちゃんとわたしは住む世界が違うなと改めて感じた。
玄関の前には可愛らしいチューリップが咲いていてようこそと言っているみたいだ。
「葉月ちゃん、おはよう」
玄関の扉がガチャリと開き今日も美しい英美利ちゃんはチューリップの可愛らしさとはまた違いやはり豪華な薔薇のような女性だ。その存在感と満ち溢れた自信に圧倒される。
「あ、わたしはそろそろ仕事だから出かけるけどもう一人のお手伝いさんに仕事を教えてもらってね。浜本行くわよ!」
英美利ちゃんは輝く薔薇のような華やかな笑顔を浮かべた。
「はい、英美利ちゃん頑張ります」
わたしは、ぺこりと頭を下げた。
「うん、葉月ちゃんこちらこそよろしくね。わたしの家の掃除などは大変かもだけど頑張ってね。浜本、何してるの? そうだ、雪本さ~ん、新しいお手伝いをしてくれる子が来たわよ」
英美利ちゃんは朝から忙しそうだ。
「英美利、うるさいな。お前の荷物が重たいからだろう。何が入っているんだよ。あ、成田さんおはようございます」
浜本さんが荷物でぱんぱんに膨らんだ鞄を両手に持ち奥の部屋から出てきた。
「浜本さん、おはようございます。荷物重たそうですね」
「そうなんですよ。英美利の奴はいらない物まで鞄に詰め込むから持たされてる俺はいい迷惑ですよ」
浜本さんは嫌そうに顔を歪めて言った。
「……大変ですね」
とても重たそうにしている浜本さんを見ると同情してしまう。
「浜本、わたしの悪口言わないでよ。わたし雪本さんを呼んで来るね。雪本さ~ん」
英美利ちゃんは浜本さんをキッと睨みそれから奥の部屋に行ってしまった。
「本当にうるさいし困った奴ですよ……あ、そうだ、成田さん初仕事頑張ってくださいね。それから雪本さんに負けないでくださいね」と言った。
何だろ? 今、なんだか引っかかる言葉を聞いたような気がするのだけど。
「よし、頑張って働くぞ! 時給千六百円だもんね」
わたしは、胸の前に握りこぶしを作り気合いを入れた。昨夜はお姉ちゃんが出てくる嫌な夢を見たけれどバナナとリンゴのおかげで元気が出てきた。わたしってやっぱり単純だなと思う。
全身鏡の前に立ち身だしなみを整える。前髪をまっすぐ綺麗に下ろし髪の毛をきゅっと一つに結ぶ。
それから鞄の中身を確認する。エプロンもちゃんと入っている。マニュアルにはエプロンは貸すこともできるとあったけれどやっぱり自分のエプロンが良いなと思い持参することにした。
「いってきま~す」
わたしは、誰もいない部屋に向かって挨拶をする。新しい仕事はいつでも不安と期待が入り混じる。頑張って働こう。
玄関の扉を閉めようとしたその時、
バナナとリンゴが机の上から同時に滑り落ちた。
わたしは、慌てて部屋に戻り床に転がっているバナナとリンゴを拾い元の位置に戻す。どうして転がり落ちたのかなと不思議に思った。なんだか縁起が悪いような気もするけれど、まぁいいか。
それより急がないと遅刻してしまう。
今度こそいってきま~すと玄関の扉を閉めた。
外に出ると春の太陽がキラキラと輝いていた。ぽかぽかと暖かくて幸せな気持ちになる。このまま、どこかに出かけたいなと思うけれどそうもいかない。
桜の花びらがふわふわと風に吹かれて舞っている。まるで春の雪みたいに見える。さらさらと雪のように舞う花びらはとても綺麗だ。
このままずっと幸せな気持ちが続くと思ったのだけど。
ーーーー
中川家の豪邸を見上げる。やっぱり英美利ちゃんの家は立派だ。今日も門柱に取りつけられているインターホンをえいやと押した。
「はーい」とインターホン越しに英美利ちゃんの声が聞こえてきた。
「おはようございます。葉月です」
「あら、葉月ちゃんね。どうぞ、門を開けるから入ってきて」
今回も前回と同様に門がギーギーッと自動的に開いた。わたしは中に入る。
綺麗な春の花が咲き誇っているお庭も広くて小さな公園を思わせる。わたしとたった二つしか年が違わない女性の住いがこれだなんて英美利ちゃんとわたしは住む世界が違うなと改めて感じた。
玄関の前には可愛らしいチューリップが咲いていてようこそと言っているみたいだ。
「葉月ちゃん、おはよう」
玄関の扉がガチャリと開き今日も美しい英美利ちゃんはチューリップの可愛らしさとはまた違いやはり豪華な薔薇のような女性だ。その存在感と満ち溢れた自信に圧倒される。
「あ、わたしはそろそろ仕事だから出かけるけどもう一人のお手伝いさんに仕事を教えてもらってね。浜本行くわよ!」
英美利ちゃんは輝く薔薇のような華やかな笑顔を浮かべた。
「はい、英美利ちゃん頑張ります」
わたしは、ぺこりと頭を下げた。
「うん、葉月ちゃんこちらこそよろしくね。わたしの家の掃除などは大変かもだけど頑張ってね。浜本、何してるの? そうだ、雪本さ~ん、新しいお手伝いをしてくれる子が来たわよ」
英美利ちゃんは朝から忙しそうだ。
「英美利、うるさいな。お前の荷物が重たいからだろう。何が入っているんだよ。あ、成田さんおはようございます」
浜本さんが荷物でぱんぱんに膨らんだ鞄を両手に持ち奥の部屋から出てきた。
「浜本さん、おはようございます。荷物重たそうですね」
「そうなんですよ。英美利の奴はいらない物まで鞄に詰め込むから持たされてる俺はいい迷惑ですよ」
浜本さんは嫌そうに顔を歪めて言った。
「……大変ですね」
とても重たそうにしている浜本さんを見ると同情してしまう。
「浜本、わたしの悪口言わないでよ。わたし雪本さんを呼んで来るね。雪本さ~ん」
英美利ちゃんは浜本さんをキッと睨みそれから奥の部屋に行ってしまった。
「本当にうるさいし困った奴ですよ……あ、そうだ、成田さん初仕事頑張ってくださいね。それから雪本さんに負けないでくださいね」と言った。
何だろ? 今、なんだか引っかかる言葉を聞いたような気がするのだけど。
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