44 / 60
美衣佐がわからない
3美衣佐Side 当近さんへ
しおりを挟むわたしはペンを握り交換日記を書く。
当近さんへ。
わたしは今、バイト先のテーブルでこの交換日記を書いています。日曜日は家に招いてくれてありがとう。楽しい時間を過ごすことができました。
当近さんのお母さんが用意してくれたイチゴのケーキとっても美味しかったよ。当近さんの優しいお母さんに会えて良かった。
うふふ、ケーキのイチゴ大きくて甘酸っぱかったな。わたし、イチゴも薔薇も好きなんだよ。真っ赤で可愛くて綺麗なんだもん。
それとね、お父さんが描いた返り血を浴びた女性の絵と綺麗な薔薇の花が重なって見えたよ。(あ、お父さん画家を目指しているんだよ)
可愛らしくて綺麗な薔薇とイチゴにもきっと、不気味で深い闇があるんだろうね。なんてね……。
当近さん、ごめんなさい。何のことかわからないよね。わたし、可愛らしいものが好きだけど、深い深い闇も心の奥底に持っているんだよ。
当近さん、人は見かけだけで判断できないよ。その人の後ろに見えない秘密が隠れているかもしれないんだからね。
うふふ、変な話をしてごめんね。今の話は忘れてね。お父さんがね黒髪に白のブラウス、黒のミニスカートに白のハイソックスを履いた女性の絵を描いたのよ。
その絵の女性ってば白のブラウスと白のハイソックスに返り血を浴びているんだよ。顔にも血しぶきを浴びているんだよ。
なんかおかしいでしょ。オマケに血の付いた包丁と薔薇が足元に落っこちているんだもん。誰がこんな絵を喜ぶんだろうね?
その絵を思い出して可愛らしくて綺麗な薔薇とイチゴにも闇が隠れているかなと想像しちゃいました。
わたしって変だよねと、ここまで書いたところで、
「美衣佐ちゃん、そろそろ交代の時間だよ。おはよう」と言いながら十七時までのシフト勤務の有川さんが休憩室にひょっこり顔を出す。
「あ、おはようございま~す。今、行きます」
わたしは『じゃあね、当近さん、バイトが始まる~またね、美衣佐より』とだけ追加し、書いていた交換日記をパタッと閉じ慌てて立ち上がる。
「あはは、美衣佐ちゃんそんなに急がなくても大丈夫だよ」
丸顔で癒し系の有川さんはうふふと笑う。
「遅れるとはね。何をしていたのこれだから高校生は呑気よねってうるさい鬼おばさんがいるんですもん」
わたしは休憩室から出て隣のロッカーに交換日記と筆記用具をしまいながら言った。
「鬼おばさんなんて呼んでるの聞かれちゃダメだよ」
「は~い!」とわたしは明るい声を出し返事をした。
もう一度全身鏡に自分の姿を映し身だしなみをチェックする。その鏡の中には美しい薔薇の花のような牧内美衣佐がいた。それとほぼ同時にお父さんの描いた返り血を浴びた女性が映ったような気がした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私と継母の極めて平凡な日常
当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。
残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。
「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」
そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。
そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

流星の徒花
柴野日向
ライト文芸
若葉町に住む中学生の雨宮翔太は、通い詰めている食堂で転校生の榎本凛と出会った。
明るい少女に対し初めは興味を持たない翔太だったが、互いに重い運命を背負っていることを知り、次第に惹かれ合っていく。
残酷な境遇に抗いつつ懸命に咲き続ける徒花が、いつしか流星となるまでの物語。
蛍地獄奇譚
玉楼二千佳
ライト文芸
地獄の門番が何者かに襲われ、妖怪達が人間界に解き放たれた。閻魔大王は、我が次男蛍を人間界に下界させ、蛍は三吉をお供に調査を開始する。蛍は絢詩野学園の生徒として、潜伏する。そこで、人間の少女なずなと出逢う。
蛍となずな。決して出逢うことのなかった二人が出逢った時、運命の歯車は動き始める…。
*表紙のイラストは鯛飯好様から頂きました。
著作権は鯛飯好様にあります。無断転載厳禁
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる