ねえ当近さんちょっとレトロだけどわたしと交換日記をしない?

なかじまあゆこ

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美衣佐がわからない

3美衣佐Side 当近さんへ

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  わたしはペンを握り交換日記を書く。

  当近さんへ。

  わたしは今、バイト先のテーブルでこの交換日記を書いています。日曜日は家に招いてくれてありがとう。楽しい時間を過ごすことができました。

  当近さんのお母さんが用意してくれたイチゴのケーキとっても美味しかったよ。当近さんの優しいお母さんに会えて良かった。

  うふふ、ケーキのイチゴ大きくて甘酸っぱかったな。わたし、イチゴも薔薇も好きなんだよ。真っ赤で可愛くて綺麗なんだもん。

  それとね、お父さんが描いた返り血を浴びた女性の絵と綺麗な薔薇の花が重なって見えたよ。(あ、お父さん画家を目指しているんだよ)

  可愛らしくて綺麗な薔薇とイチゴにもきっと、不気味で深い闇があるんだろうね。なんてね……。

  当近さん、ごめんなさい。何のことかわからないよね。わたし、可愛らしいものが好きだけど、深い深い闇も心の奥底に持っているんだよ。

  当近さん、人は見かけだけで判断できないよ。その人の後ろに見えない秘密が隠れているかもしれないんだからね。

  うふふ、変な話をしてごめんね。今の話は忘れてね。お父さんがね黒髪に白のブラウス、黒のミニスカートに白のハイソックスを履いた女性の絵を描いたのよ。

  その絵の女性ってば白のブラウスと白のハイソックスに返り血を浴びているんだよ。顔にも血しぶきを浴びているんだよ。

  なんかおかしいでしょ。オマケに血の付いた包丁と薔薇が足元に落っこちているんだもん。誰がこんな絵を喜ぶんだろうね?

  その絵を思い出して可愛らしくて綺麗な薔薇とイチゴにも闇が隠れているかなと想像しちゃいました。

 

  わたしって変だよねと、ここまで書いたところで、

「美衣佐ちゃん、そろそろ交代の時間だよ。おはよう」と言いながら十七時までのシフト勤務の有川ありかわさんが休憩室にひょっこり顔を出す。

「あ、おはようございま~す。今、行きます」

  わたしは『じゃあね、当近さん、バイトが始まる~またね、美衣佐より』とだけ追加し、書いていた交換日記をパタッと閉じ慌てて立ち上がる。

「あはは、美衣佐ちゃんそんなに急がなくても大丈夫だよ」

  丸顔で癒し系の有川さんはうふふと笑う。

「遅れるとはね。何をしていたのこれだから高校生は呑気よねってうるさい鬼おばさんがいるんですもん」

  わたしは休憩室から出て隣のロッカーに交換日記と筆記用具をしまいながら言った。

「鬼おばさんなんて呼んでるの聞かれちゃダメだよ」

「は~い!」とわたしは明るい声を出し返事をした。

  もう一度全身鏡に自分の姿を映し身だしなみをチェックする。その鏡の中には美しい薔薇の花のような牧内美衣佐がいた。それとほぼ同時にお父さんの描いた返り血を浴びた女性が映ったような気がした。
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