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美衣佐がわからない

2美衣佐Side 憎くてでも嫌いじゃない

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  わたしは、和食と洋食両方食べられる飲食店とスーパーで品出しの仕事を掛け持ちしている。本当はお兄ちゃんが働いているニコニコカフェで働きたかった。

  だけど、仕事もお兄ちゃんと一緒ではべったり過ぎるかなと思いやめた。それにお客さんとしてお兄ちゃんの働きぶりを見るのが楽しいからいいのだ。

  お兄ちゃんはお盆に店長の美間さんが作った料理を載せテキパキとお客さんの元へと運ぶ。その働きぶりとお兄ちゃんの甘いマスクがお客さんに好評だ。

  若い女性はもちろんのことお兄ちゃんは中年女性やおばあちゃんからも人気がある。さらに男性からも……。老若男女問わずお兄ちゃんは人気者の店員さんなのだ。

  そんなお兄ちゃんがわたしの自慢である。それと同時にその人はわたしのお兄ちゃんだよとウッキーとなる。そう、わたしのお兄ちゃんだよと……。

  従業員専用入口の扉からお店『薔薇レストラン』の更衣室に入る。今日は飲食店のバイトだ。

  ロッカーに荷物を入れ私服から制服に着替える。白のシャツに黒のスラックス、それから赤のミドルエプロンをつける。全身鏡に自分の姿を映す。制服に着替えただけですっかり店員さんになる。

  壁に掛けられている時計に目をやると勤務開始まで二十五分ある。わたしは、カバンから交換日記を取り出し休憩室の椅子に腰を下ろしテーブルに交換日記を置く。

  交換日記を開き当近さんが書いた日記を読み返す。

『美衣佐ちゃんに貰った薔薇の花を花瓶に挿して飾っているよ』

『今、目の前にあってとても綺麗だよ。存在感がめちゃくちゃある!  ありがとう』

  わたしは、当近さんのお世辞にも綺麗とは言えない字を読み「存在感があるねか……」と呟いた。

  あの薔薇が当近さんの部屋に飾られているのかと思うとちょっと嬉しくはなる。



  わたしは、ぼーっと頬杖をつき、それから交換日記に目を落とす。

『生クリームがたっぷりなイチゴのシュークリームも美味しかったね。あのイチゴのシュークリームこの前お兄さんのアルバイト先のカフェでも食べました』

『お兄さんと美衣佐ちゃんは兄妹だから好きな食べ物もそっくりなのかな。お兄さんもぱくぱく美味しそうに食べていたよ』

 当近さんの書いた交換日記を読み色々考える。

  当近さんはお兄ちゃんのことをどう思っているのかな。兄妹だから好きな食べ物もそっくりなのかなだって……。ふん、馬鹿みたい。

  わたしは当近さんの日記をじーっと眺めた。その時、お父さんの描いたあの不気味な絵が頭に浮かんだ。

  白のブラウスと白のハイソックスに返り血を浴びているあの女性がわたしに似ているような気がしてきた。

  そう、わたしは、ナイフでグサッと誰かを刺したいそんな衝動に駆られる。こんなわたしはどうかしている。

  血の付いた包丁と薔薇が落っこちている……不気味な絵。お父さん、その女性はわたしに似ているよ。ねえ、わたしに似ているよ。まさかわたしをモデルにしたってことはないだろうけれど。

  不気味なあの絵の女性がもう少し大人になった自分の姿だと想像するとゾクッとした。

  わたしはどんな大人になるのだろうか。それはわからない。あのお父さんが描いた絵のような世界にわたしはいるのかもしれない。

  黒い影がわたしを追いかけてくる。逃げても逃げても追いかけてくる。赤い血がタラタラと流れ真っ白だった世界を汚す。

  当近さん、あなたが憎くて堪らない。だけど、嫌いではない。だって、当近さんは優しい女の子だから。

  ねえ、当近さんわたしはどうしたらいいのかな。教えてくれないかな?

  わたしは交換日記をじっと眺め呟いた。



  
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