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美衣佐がわからない

やっぱりわからない

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「美衣佐ってばあの時ニンマリと笑っていたよね?」

「えっ?  わたし笑っていたかな」

「あれは、絶対笑っていたよ」

  やっぱり三竹さんも美衣佐が笑っているように見えたんだ。

「だって、今時足をぎゅぎゅーっと踏むなんて流行らないかなと思ってね」

「え~そういう問題なの?」

「うん、そういう問題だよ」

   わたしは、美衣佐の言っていることが理解できなかった。それでどうして口角をキュッと上げて笑うのだろう。美衣佐とわたしは友達だよね。そう思っているのはわたしだけなのかな。

『当近さん大丈夫?  真紀ちゃんに足を踏まれたんだよね』とあの時美衣佐は言った。

  美衣佐、あなたは眉間に皺を寄せ心配そうにわたしの顔を見たよね。

  本当は心配なんてしていなかったの?  美衣佐どうして……。心の中で何を考えているの。想像してみるけれどさっぱりわからない。

「それで美衣佐ちゃんはどうしてシャープペンを落としたの?」

「さあね、なんか面白いことが起こるかなと思ったんだよ」

  美衣佐の言っている面白いことなんて聞きたくもないし知りたくもない。学校に引き返さなければ良かった。そしたらこんな気持ちになることもなかった。

  わたしは、引き戸の前から離れ踵を返しこの場から立ち去る。外に出るとオレンジ色の夕焼けが眩しかった。

  キラキラ輝く夕日も今は綺麗に感じられなかった。わたしは、トボトボと歩き家路に向かう。

  悲しくて辛くてそんな言葉では言い表すことができないほどショックを受けていた。マンガなんて取りに戻らなければ良かった。ううん、取りに戻ったから美衣佐の裏の顔を知ることができたのだ。


  取りに戻ったから……。戻らなかったら今も美衣佐のことを大切な友達だと思っていた。ううん、今でも美衣佐のことを……。そう、友達だと思っている。

   わたしは、馬鹿だ。三竹さんと一緒に笑う美衣佐のあの声を聞いたのに。それでも嫌いになれないなんてどうかしている。

  気がつくとわたしは、パン屋の隣にあるニコニコカフェの二階の窓を見上げていた。窓から灯りが漏れている。きっと、あのカフェは温かい幸せが溢れているんだろうな。

  わたしの心は寂しくて悲しくて仕方がないのに。

  ニコニコカフェに足が自然に向く。わたしの足は吸い込まれるようにカフェの階段を上っていた。

  二階のニコニコカフェの温かみがある木製の扉の前にわたしは立っている。ここに来るつもりはなかったのに何故だか来てしまった。

  勇気を出してわたしはその木製の扉を開けた。カランカランとドアベルが鳴る。

  店内に入ると、コーヒーの香りがふわふわと漂い、今日も木の温もりが感じられる店内だった。

「いらっしゃいませ~」と明るい声がわたしを迎え入れてくれた。

  この声はお兄さんだ。お兄さんの声を聞くと美衣佐の口角をキュッと上げて笑うあの表情を思い出してしまった。

「あれ!  当近さん」

  お兄さんはわたしの顔を見て目を見開いている。
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