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アルバイトと美衣佐とわたしの家
嫉妬
しおりを挟む翌日、美衣佐は遅刻ギリギリに登校してきた。交換日記はまだ受け取っていない。
授業中、美衣佐はノートにペンを走らせている。先生が黒板に書いた板書を黙々と書き写している。と、思ったのだけど、違った。
美衣佐がペンを走らせているノートは交換日記だ。わたしは、その内容が気になった。チラリチラリと盗み見しようとしたけれど、交換日記は家に帰ってから読むのが楽しみなのだ。
わたしは前に向き直り先生が黒板に書いた内容を書き写す。隣の席の美衣佐はまだ、交換日記を書いているようだ。
内容が気になる。でも、見ては駄目だ。
わたしは視線を窓の外に向けた。緑色の葉が陽の光をたっぷり浴びてキラキラと輝きとても綺麗だ。頬杖を付きぼんやりと窓の外を見ているとぽかぽかしてきて眠たくなってきた。
「ねえ、当近さん」
わたしは、その声に顔を上げた。
気づくと美衣佐がわたしの目の前に立っていた。
「あ、美衣佐ちゃん」
「数学の授業終わったよ」
「えっ!」
「もう、当近さんってば寝ていたでしょう?」
美衣佐はクスクスと笑い、「はい、交換日記だよ」と言って交換日記を差し出した。
「えへへ、寝ていたかも」
わたしは照れ笑いを浮かべ美衣佐から交換日記を受け取った。
今日も美衣佐の交換日記が読めると思うとわたし嬉しくなった。
「当近さん、次の授業は寝ちゃダメだよ。うるさい化学の先生だからね」
美衣佐はニヤリと笑いわたしの右隣の席に戻り化学の授業の準備を始める。
「うん、寝ないよ。でも、美衣佐ちゃんもさっきの授業中この交換日記を書いていたでしょ?」
わたしは、ニヤリと笑い返す。
「あ、当近さんってば見ていたの!」
「えっと、何気なくそっちを向いたら交換日記が見えたんだよ。でも、何を書いていたか見てないからね」
「あはは、そんな慌てなくてもいいよ」
美衣佐はうふふと笑いわたしの顔を見た。
「あ、慌ててなんていないもん」
わたしは頬を膨らませ、交換日記を通学カバンに仕舞い机の中から化学の教科書を取り出した。こんな友達との何気ないやり取りはなんだか楽しいな。
その時。
「美衣佐ちゃ~ん、シャペーンの芯ちょうだい」と言いながら三竹さんがこちらにやって来た。隣の席の子に貰えばいいのになと思う。
「シャペーンの芯ね。いいよ」
美衣佐はペンケースからシャペーンの芯入れを取り出した。
「美衣佐ちゃんってば優しい」
美衣佐の机の前までやって来た三竹さんは、チラッとわたしに視線を向けながら言った。
こっちを見ないでほしい。美衣佐のお兄さんが言っていた嫉妬なのだろうか。だけど、嫉妬なんてしなくても三竹さんは美衣佐とめちゃくちゃ仲良しではないか。
美衣佐はシャー芯を取り出しにっこりと笑っている。
「ふぅ、良かった。美衣佐ちゃんありがとうね」
三竹さんはお礼を言いながらヒヨコのイラストがピヨピヨと可愛らしいシャペーンに芯を入れた。
「どういたしまして」
美衣佐は笑顔でシャペーン入れをペンケースに仕舞う。
そんな二人の様子を横目でチラリと見た。三竹さんがわたしに嫉妬するのではなくその逆の方があり得そうだよと思った。
だって、二人はわたしが羨ましく感じるほど仲良しに見えるのだから。すると、その時、三竹さんがこちらを見た。わたしを射貫くような目だ。
一体何が気に入らないのだろうか。
わたしは恐ろしくなり目を逸らした。美衣佐はどうして三竹さんなんかと友達なんだろう。
美衣佐に三竹さんなんて似合わない。
三竹さんに美衣佐は似合わない
絶対似合わないんだからね。わたしは、心の中で叫んだ。
絶対に絶対に似合わないんだからね!! 自分の心の中の叫び声があまりにも醜くてわたしはゾッとした。
「美衣佐ちゃん、また、お昼にね」
「うん、真紀ちゃんまた、後でね」
美衣佐と三竹さんの声にハッとして顔を上げた。二人に目を向けると楽しそうに笑い合っていた。
お兄さん、嫉妬するのはわたしのほうですよ。わたしは、三竹さんの艶々サラサラの揺れる髪をじっと、眺めながらそう思った。
「当近さん、授業が始まるね」
美衣佐はそう言ってわたしに微笑みかけた。その顔は天使みたいでとても可愛らしかった。
「うん、そうだね……」とわたしが答えたのとほぼ同時にチャイムが鳴った。
先生が教室に入ってきて授業が始まってからもわたしは集中出来なかった。三竹さんの射貫くような視線を思い出し、それから隣の席に座っている美衣佐の綺麗な横顔をチラチラと眺めてしまった。
交換日記を始めて楽しかったはずだったのに……わたしの心は薄汚れてきたような気がする。
今、美衣佐は先生が黒板に書いた板書を黙々と書き写している。今度は交換日記ではなくノートに。
「当近さん、当近海代さん」
「えっ?」
「当近さん、えっ? じゃあありませんよ。次のページの一行目から読んでください」
「あ、はい!」
わたしは、椅子から立ち上がり返事をした。そう返事をしたのだけど、次のページって何ページだろう。授業を聞いていなくてわからない。
どうしよう。この先生怖いのに……。頭の中が真っ白になりかけたその時。
隣の席の美衣佐がこちらを向き、机の端に教科書をサッと置いた。そして、美しい長くて細い人差し指で教科書を指した。
あ、美衣佐は教えてくれたのだ。『ありがとう美衣佐ちゃん』とわたしは目でお礼を言った。
美衣佐はニコッと笑った。その顔は『いえいえ』と言っているように見えた。
わたしは自信を持って教科書を読んだ。窓際の一番前の席の三竹さんに向かって自慢げに……。
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