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アルバイトと美衣佐とわたしの家
お兄さんとカフェ
しおりを挟むその日、学校からの帰りパン屋さんの前を通った。香ばしいパンの香りがふわふわふわりと漂ってきた。わたしは、するすると引き込まれてしまいそうになる。
だが、今日はパン屋さんも気になるけれど、その隣のカフェがもっと気になる。
『そこのパン屋さんの隣のカフェなんですよ。今から出勤です』と言った美衣佐のお兄さんの言葉がよみがえってくる。
お兄さんは今、このカフェで仕事をしているのかな。
わたしは『ニコニコカフェ』とカフェ名が書かれていて、黒板に美味しそうなケーキに紅茶やコーヒーなどの写真が貼られ、チョークでお値段やメッセージが書かれているスタンド看板をじっと眺めてしまった。
うふふ、見ているだけでヨダレが垂れそうになる。ケーキも食べたいし紅茶も飲みたいな。なんて食いしん坊ぶりを発揮していると、
「あれ? 当近さんじゃないですか」と背後から声をかけられた。その声に振り向くと美衣佐のお兄さんが制服姿でニコニコと笑い立っていた。
「お兄さん、今からカフェでお仕事ですか?」
「はい、今から仕事ですよ。どうですか?
当近さん寄っていきますか?」
お兄さんは爽やかな微笑みを浮かべた。
わたしは思わず「はい」と答えてしまった。
「では、当近さん行きましょう」と言ってお兄さんは階段を上がった。わたしもそのあとを追いかける。
そして、二階に辿り着くわたしは吸い込まれるように店内に足を踏み入れた。ドアベルがカランカランと鳴る。
店内はテーブル席やソファ席にそれからカウンター席があり木の温もりを感じるゆったりした空間になっていた。
グラスを布巾で磨いていた店員さんがこちらを振り向いた。
「いらっしゃいませ。ニコニコカフェへようこそ~」
ボーダーTシャツに黒のエプロンをかけ長い髪の毛を一つに結わえた女性の店員さんが満面の微笑みを浮かべた。年は三十代前半くらいだろうか。
「あら? 美晴君が連れてきてくれたお客様?」
店員さんはお兄さんとわたしの顔を交互に見て言った。
「妹の友達なんですよ。店の外で偶然会いまして」
お兄さんはそう言ってわたしを紹介した。
「美衣佐ちゃんのお友達なんですね。どうぞ、お好きな席に座ってくださいね」
店員さんは、わたしの顔を見て優しい微笑みを浮かべた。この店員さんは、美衣佐のことを知っているようだ。
「はい。ありがとうございます」
「あ、当近さん、俺は制服に着替えてきます。お勧めは外が見える窓際の席か奥の壁側の席が落ち着きますよ」
お兄さんはニコッと微笑みを浮かべ店内の奥へと向かった。
わたしは、お兄さんお勧めの外が見える方の窓際のカウンター席に腰を下ろした。
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