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美衣佐の家
アルバイト
しおりを挟む二階の自室でチョココロネを食べながらわたしはスマホでネットの求人サイトを開いてみた。
「へぇ~条件から選ぶことが出来るんだ」
わたしは、『職種から選ぶ』をタップしてみる。何々、職種がたくさん出てきた。
飲食店、オフィス、コールセンター、工場、軽作業、営業等々あるではないか。なんだかこの中に夢が詰まっているような気がしてわたしは、目を輝かせた。
ふむふむ、と手に付いたチョコレートをウエットティッシュで拭きながら眺め、えぃっと飲食店をタップしてみる。
制服姿のお姉さんが笑顔を浮かべている写真と求人内容や時給、条件、時間帯等が記載されていた。
求人情報が色々載っていて目移りしてしまいそうだ。うーん、でも、高校生不可が多いかな。
わたしは、色々な求人募集を眺めた。ああ、写真に載っているお姉さんのような笑顔を浮かべることは難しいかなと思うと溜め息が出た。
やっぱり裏方さんがいいかな。と言うかわたしアルバイトなんて果たして出来るのだろうか。
だって、働く前に面接もあるんだよね。それを考えると胸がドキドキしてきた。
すでにアルバイトをしている美衣佐やお兄さんを尊敬してしまう。それと同時にわたしは子供だよねと思い肩を落とす。
そうだ、今度美衣佐にアルバイトの極意でも聞いてみようかなと考え、求人サイトを閉じた。
翌日、わたしは美衣佐からの交換日記を開く。この瞬間いつもワクワク胸が弾む。
当近さんへ。
日曜日わたしの家に来てくれてありがとう。とっても楽しい時間を過ごすことができました。また、来てね。
それはそうとわたし薔薇に囲まれて生活していたと思われていたんだね。
薔薇の花に囲まれて暮らしている自分の姿を想像してみたよ。うふふ、案外似合っているかもね。まあ、それは冗談だよ。
でも、びっくりしたかな? わたしが薔薇の花とかけ離れたボロボロアパートに住んでいて……。幻滅してなければいいのだけど。
このアパートで幸せに暮らしているのならば……問題ないのだけどね。幸せであれば。
お兄ちゃんも優しいしわたしは幸せなのかな? 自分のことなのによくわからないね。
あ、そうだ。家にお招きしてもらえるんだね。
わたし当近さんの家に遊びに行きたいよ。いつにする~。なんて気が早いね。
美衣佐より。
わたしは、美衣佐からの交換日記を読み終えた。
美衣佐がわたしの家に遊びに来たいと思っている。それを読み嬉しくて、思わずわーいと跳び跳ねてしまった。
そう嬉しくて頬が緩んだのだけど、
『このアパートで幸せに暮らしているのならば……問題ないのだけどね。幸せであれば』と書かれているこの文面を読み返し気になった。
美衣佐は幸せではないのだろうか。
ねえ、美衣佐、正直ボロボロアパートはびっくりしたけれど、わたしは幻滅なんてしないし、美衣佐はどこにいても輝いていると思ったんだよ。
『幻滅してなければいいのだけど』、『幸せであれば』と美衣佐の丸くて可愛らしい文字で書かれているその言葉に向かってわたしは語りかけた。
返事はないけれど、薔薇のような微笑みを浮かべている美衣佐がすぐ近くにいるように感じた。
交換日記を読んでいるだけでその文字を眺めているだけで、美衣佐の存在を強く強く感じる。
美衣佐には薔薇の花が咲き誇る豪邸なんて必要ない。だって、その存在そのものが薔薇の花のようなのだから。
わたしは、交換日記を閉じいちご柄の表紙を見つめる。それからふわふわしていて猫を撫でているような手触りの表紙をそっと撫でた。
心地よい安らぎがやって来た。
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