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美衣佐の家

2 再び美衣佐Side

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  わたしのお兄ちゃん牧内美晴は高校三年生。わたしの二つ上だ。

  高校は自宅から電車で二十分くらいの都立高校に通っている。因みにわたしは電車で十分くらいだ。妹のわたしが言うと自慢に聞こえるかもしれないけれどお兄ちゃんは、目鼻立ちの整った美形だ。

  そして、わたしも美少女らしくてそう兄妹揃って美男美女だと良く言われている。

  これは嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちになる。

  わたしは当近さんになりたい。いや、それも……本当になったとして幸せなのかもわからない。けれど、それでもわたしは……。

  当近さんになりたいなと思う。当近さんが羨ましいな。そして、憎い。こんなことを考える自分のことが一番嫌いでありそれでもわたしは自分が好きなのかもしれない。

  醜い心と美しい美貌を持つわたしは、牧内美衣佐だ。

  牧内美衣佐ではない人生を歩みたかった。でもそれは出来なくて、わたしは牧内美衣佐として生きるしかない。

 わたしの瞳から涙が零れ落ちた。この家庭の牧内美衣佐でなければ果たしてどんな人生が待っていただろうか。

「おい、美衣佐、どうしたんだ?  コンビニでプリンを買ってきたよ。これ、好きだよね?  それと美衣佐泣いているの?」


  気がつくとお兄ちゃんが眉間に皺を寄せ心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。

「えっ!  あ、目にゴミが入ったみたい。プリン、食べるよ。わたしの大好物だもん」

  手の甲で涙を拭ったわたしの顔に笑顔の花がぱーっと咲く。

「ゴミかそれなら良かったよ。プリンを食べるかいって聞いたのに返事がないからどうしたのかと思ったよ」

  コンビニの袋に手を入れたお兄ちゃんはプリンを二つ取り出した。

  そして、わたしの目の前に置き「どうぞ」と言って優しい笑みを浮かべた。

「わ~い、プリンだ~いただきま~す」

  わたしは、プラスチックのスプーンを手に取りプリンを口に運んだ。

「う~ん、美味しいよ」
「あはは、美衣佐はプリンが好きだよな」

  お兄ちゃんは頬を緩め優しい目でわたしを見ている。

「うん、プリンもお兄ちゃんも大好きだよ」

「あはは、それはありがとう」

  そう言って笑いながらお兄ちゃんもプリンを口に運んだ。

  やっぱりわたしは不幸だけど幸せなのかもしれない。お兄ちゃんの優しい笑顔とプリンのとろりと濃厚な味わいが口の中に広がり、この瞬間はとても幸せだった。


  翌日、学校ヘ行くと当近さんが「昨日はありがとう」と言いながら交換日記を差し出した。

  わたしは口角を上げにっこりと笑顔を作り受け取った。

「お兄さんに駅まで送ってくれてありがとうと伝えてね」

  当近さんは笑顔で言った。最近の当近さんは良く笑うようになったなと思う。

  わたしは、交換日記を通学カバンに詰め込みながら当近さんの横顔をちらりと盗み見る。

  当近さんの微笑みを浮かべている横顔は自然で可愛らしかった。無邪気で自然体な当近さんが羨ましい。

  家に帰るとわたしは当近さんが書いた交換日記のページを開く。

  すると、そこには、朝、当近さんが直接言った『お兄さんへありがとうございましたと伝えてね』と書かれた文字が交換日記にもあった。

  わたしはそのあまり綺麗とは言えない文字をじっと眺め「ふーん」と声に出し呟いた。やっぱりお兄ちゃんは当近さんにもいい顔をしたんだなと思った。

  ふーん、やっぱりね。でも、ちょっと面白くなってきたのかな。

  それはそうと『お兄さんは美衣佐ちゃんのことを本当に愛おしく思っているなと感じた』と書かれているけれど、やっぱりお兄ちゃんはわたしのことを愛おしく感じてくれているのかな……と思った。

  それと、わたしの家にも遊びに来てねか……。うふふ、遊びに行くわよ。当近さん。待っていてね。

  わたしは口元に手を当てて笑った。
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