20 / 60
美衣佐の家
2 再び美衣佐Side
しおりを挟むわたしのお兄ちゃん牧内美晴は高校三年生。わたしの二つ上だ。
高校は自宅から電車で二十分くらいの都立高校に通っている。因みにわたしは電車で十分くらいだ。妹のわたしが言うと自慢に聞こえるかもしれないけれどお兄ちゃんは、目鼻立ちの整った美形だ。
そして、わたしも美少女らしくてそう兄妹揃って美男美女だと良く言われている。
これは嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちになる。
わたしは当近さんになりたい。いや、それも……本当になったとして幸せなのかもわからない。けれど、それでもわたしは……。
当近さんになりたいなと思う。当近さんが羨ましいな。そして、憎い。こんなことを考える自分のことが一番嫌いでありそれでもわたしは自分が好きなのかもしれない。
醜い心と美しい美貌を持つわたしは、牧内美衣佐だ。
牧内美衣佐ではない人生を歩みたかった。でもそれは出来なくて、わたしは牧内美衣佐として生きるしかない。
わたしの瞳から涙が零れ落ちた。この家庭の牧内美衣佐でなければ果たしてどんな人生が待っていただろうか。
「おい、美衣佐、どうしたんだ? コンビニでプリンを買ってきたよ。これ、好きだよね? それと美衣佐泣いているの?」
気がつくとお兄ちゃんが眉間に皺を寄せ心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。
「えっ! あ、目にゴミが入ったみたい。プリン、食べるよ。わたしの大好物だもん」
手の甲で涙を拭ったわたしの顔に笑顔の花がぱーっと咲く。
「ゴミかそれなら良かったよ。プリンを食べるかいって聞いたのに返事がないからどうしたのかと思ったよ」
コンビニの袋に手を入れたお兄ちゃんはプリンを二つ取り出した。
そして、わたしの目の前に置き「どうぞ」と言って優しい笑みを浮かべた。
「わ~い、プリンだ~いただきま~す」
わたしは、プラスチックのスプーンを手に取りプリンを口に運んだ。
「う~ん、美味しいよ」
「あはは、美衣佐はプリンが好きだよな」
お兄ちゃんは頬を緩め優しい目でわたしを見ている。
「うん、プリンもお兄ちゃんも大好きだよ」
「あはは、それはありがとう」
そう言って笑いながらお兄ちゃんもプリンを口に運んだ。
やっぱりわたしは不幸だけど幸せなのかもしれない。お兄ちゃんの優しい笑顔とプリンのとろりと濃厚な味わいが口の中に広がり、この瞬間はとても幸せだった。
翌日、学校ヘ行くと当近さんが「昨日はありがとう」と言いながら交換日記を差し出した。
わたしは口角を上げにっこりと笑顔を作り受け取った。
「お兄さんに駅まで送ってくれてありがとうと伝えてね」
当近さんは笑顔で言った。最近の当近さんは良く笑うようになったなと思う。
わたしは、交換日記を通学カバンに詰め込みながら当近さんの横顔をちらりと盗み見る。
当近さんの微笑みを浮かべている横顔は自然で可愛らしかった。無邪気で自然体な当近さんが羨ましい。
家に帰るとわたしは当近さんが書いた交換日記のページを開く。
すると、そこには、朝、当近さんが直接言った『お兄さんへありがとうございましたと伝えてね』と書かれた文字が交換日記にもあった。
わたしはそのあまり綺麗とは言えない文字をじっと眺め「ふーん」と声に出し呟いた。やっぱりお兄ちゃんは当近さんにもいい顔をしたんだなと思った。
ふーん、やっぱりね。でも、ちょっと面白くなってきたのかな。
それはそうと『お兄さんは美衣佐ちゃんのことを本当に愛おしく思っているなと感じた』と書かれているけれど、やっぱりお兄ちゃんはわたしのことを愛おしく感じてくれているのかな……と思った。
それと、わたしの家にも遊びに来てねか……。うふふ、遊びに行くわよ。当近さん。待っていてね。
わたしは口元に手を当てて笑った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
THE LAST WOLF
凪子
ライト文芸
勝者は賞金五億円、敗者には死。このゲームを勝ち抜くことはできるのか?!
バニシングナイトとは、年に一度、治外法権(ちがいほうけん)の無人島で開催される、命を賭けた人狼ゲームの名称である。
勝者には五億円の賞金が与えられ、敗者には問答無用の死が待っている。
このゲームに抽選で選ばれたプレーヤーは十二人。
彼らは村人・人狼・狂人・占い師・霊媒師・騎士という役職を与えられ、村人側あるいは人狼側となってゲームに参加する。
人狼三名を全て処刑すれば村人の勝利、村人と人狼の数が同数になれば人狼の勝利である。
高校三年生の小鳥遊歩(たかなし・あゆむ)は、バニシングナイトに当選する。
こうして、平和な日常は突然終わりを告げ、命を賭けた人狼ゲームの幕が上がる!
しぇいく!
風浦らの
ライト文芸
田舎で部員も少ない女子卓球部。
初心者、天才、努力家、我慢強い子、策略家、短気な子から心の弱い子まで、多くの個性がぶつかり合う、群雄割拠の地区大会。
弱小チームが、努力と友情で勝利を掴み取り、それぞれがその先で見つける夢や希望。
きっとあなたは卓球が好きになる(はず)。
☆印の付いたタイトルには挿絵が入ります。
試合数は20試合以上。それぞれに特徴や戦術、必殺技有り。卓球の奥深さを伝えております。
【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎
sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。
遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら
自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に
スカウトされて異世界召喚に応じる。
その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に
第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に
かまい倒されながら癒し子任務をする話。
時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。
初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。
2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。
クラブ「純」のカウンターから
相良武有
現代文学
バーテンダー嶋木がクラブ「純」のカウンターから、常連客や一見客、純子ママやオーナー岡林、同級生の孤児遼子や庭師後藤、印刻師菅原等の人生模様を自らの生と重ね合わせて綴る無力感や挫折感、喪失や苦悩、改軌や再生などを浮き彫りに捉えた骨太の長編物語である
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
死にたがりのうさぎ
初瀬 叶
ライト文芸
孤独とは。
意味を調べてみると
1 仲間や身寄りがなく、ひとりぼっちであること。思うことを語ったり、心を通い合わせたりする人が一人もなく寂しいこと。また、そのさま。
2 みなしごと、年老いて子のない独り者。
らしい。
私はこれに当てはまるのか?
三十三歳。人から見れば孤独。
そんな私と死にたがりのうさぎの物語。
二人が紡ぐ優しい最期の時。私は貴方に笑顔を見せる事が出来ていますか?
※現実世界のお話ですが、整合性のとれていない部分も多々あるかと思います。突っ込みたい箇所があっても、なるべくスルーをお願いします
※「死」や「病」という言葉が多用されております。不快に思われる方はそっと閉じていただけると幸いです。
※会話が中心となって進行していく物語です。会話から二人の距離感を感じて欲しいと思いますが、会話劇が苦手な方には読みにくいと感じるかもしれません。ご了承下さい。
※第7回ライト文芸大賞エントリー作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる