ねえ当近さんちょっとレトロだけどわたしと交換日記をしない?

なかじまあゆこ

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美衣佐の家

お兄さん

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「美衣佐は小さい頃俺のあとをちょこちょこくっついて歩いていましたよ。小動物みたいで可愛らしかったな」

  お兄さんはその頃を思い出しているのだろう。目を細め遠くを見つめている。美衣佐とお兄さんには仲良しな兄妹のようだ。きっと、今も昔も変わりなく。

  両親も二人のことを比較したりしないのだろうかと、考えながらわたしはお兄さんの整った横顔を眺めた。

「お兄さんのあとをくっついて歩く幼い頃の美衣佐ちゃんが想像できますよ。ほんと可愛らしかったでしょうね」

  とてとてひょこひょこヒヨコみたいにお兄さんのあとをくっついて歩く美衣佐が思い浮かび微笑ましくなる。

「ありがとう。美衣佐は寂しがりやだからこれからも仲良くしてやってくださいね」

「はい、もちろん仲良くします」

  わたしはにっこりと笑う。

「駅に着きましたよ」

  気がつくと駅に着いていた。

「あ、はい、送っていただきありがとうございました」

  わたしはお礼を言いぺこりと頭を下げた。

「いえいえ、コンビニに行くついででしたから。美衣佐が喜ぶと思うのでまた、遊びに来てくださいね」

「はい、お邪魔させていただきます」

「じゃあ、俺はコンビニに行くので。気をつけて帰ってくださいね」

  お兄さんはそう言ってコンビニがある方向へ向かう。そんなお兄さんの後ろ姿をわたしはぼんやりと見送った。


  わたしは自室の机に交換日記を広げた。

  この交換日記から美衣佐との付き合いが始まった。それまでは、同じ教室にいても遠い存在であった。

  まあ、隣の席になってからは挨拶程度はしていたけれど、それ以外は話すことなんてほとんどなかったのだ。

  それが今は家にお招きされるほど仲良くなれた。それが嬉しくてわたしはニンマリと笑い触り心地の良い交換日記の表紙にそっと触れた。

  ページを捲り今までの交換日記を読み返す。

  『しかも家は貧乏だからプレゼントも豪華じゃないんだよね……』と書かれている文面に目が止まり「あっ!」と声を出してしまった。

  この文章を初めて読んだ時はさっと読み流してしまった。薔薇の咲き誇る豪邸なんて想像してしまった自分自身になんだかなと思った。

  だけど、美衣佐は豪邸なんかよりも幸せを手に入れているのではないかな。

美衣佐ちゃんへ。

  今日は家にお招きしてくれてありがとう。とても楽しい時間を過ごすことができました。

  アップルティーの爽やかでほんのりと甘い香りに癒されました。チョコチップクッキーも美味しかったです。

  それと、薔薇の花に囲まれて暮らしているなんて勝手な想像をしていてごめんね。

  でもね、美衣佐ちゃんは薔薇の花になんて囲まれていなくても目の前にたくさんの幸せがあるように感じました。

  あ、また勝手なことを言ってしまいました。

  それとね。

  美衣佐ちゃんにはとても素敵なお兄さんがいてわたしは羨ましいです。美形だからではなくてお兄さんは美衣佐ちゃんのことを本当に愛おしく思っているなと感じたからですよ。

  今日、駅まで送ってもらいその優しさを感じました。お兄さんに、駅まで送ってくれてありがとうとわたしが言っていたと伝えてね。

  そうそう、今度わたしの家にも遊びに来てね。

  美衣佐ちゃん、今日はありがとう。

  当近海代より。

  わたしは、美衣佐への交換日記を書き終えペンを机に置き自分の書いた文字をじっと眺めた。
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