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怪しげな視線
気のせいだ
しおりを挟む誰もいなかった。というか足早に歩く会社員や買い物袋を下げた人や同じ高校の制服に身を包む学生はいた。けれど、怪しげな人はいなかったのだ。
きっと、気のせいだと思いわたしは人並みに紛れて歩く。
そうだ、お姉ちゃんにパンでも買って帰ろうかな。ドーナツを分けてもらったもんね。クリームパン、メロンパン、明太子マヨネーズパン、チョココロネどれもこれも美味しそうだ。
わたしは気を取り直してパン屋へと向かった。わたしを見ている怪しげな人なんている筈はないではないか。
パン屋の看板を見つけわたしはわくわくしながら店内に足を踏み入れた。
さあ、お姉ちゃんにパンを買って帰ろう。
パン屋で迷った末チョココロネと明太子マヨネーズパンとそれからウインナーパンを買った。
わたしは、フンフンと鼻歌を歌いながらパン屋さんのロゴ入りの袋を振り回しながら歩いた。このパン屋のウインナーパンのウインナーはパキッとした食感とジューシーな味わいがたまらなく美味しくて大好きなんだ。
家に帰ってから食べるのが楽しみだ。お姉ちゃんもきっと喜んでくれることだろう。
そんなことを考えながら少し暗くなり始めたアスファルトで舗装された道を真っ直ぐ歩く。そして、路地を左に曲がり住宅街が見えてくる。
もうすぐ、家に着くと思ったその時、視線を感じたような気がした。わたしはドキッとしながら後ろを振り返る。
すると、そこには一匹のトラ猫がこちらをじっと見て座っていた。
「なんだ、猫ちゃんか。もうびっくりしたじゃない」
わたしは、ほっとして胸を撫で下ろす。そして、トラ猫に近づき目の前にしゃがみその頭を撫でる。トラ猫は気持ち良さそうに目を細めにゃんと鳴いた。
「じゃあまたね、猫ちゃん」と言いながらわたしは立ち上がり足早に歩く。
何となく後ろが気になりわたしは振り返る。
トラ猫の姿も見えなくなっていたし怪しい人も歩いていなかったけれど、何となく不安な気持ちになった。
わたしは家の前に着くと慌てて玄関を開け家の中に滑り込んだ。
お姉ちゃんが帰って来るとパンを分けてあげた。嬉しいと言ってお姉ちゃんは喜んでパンを食べてくれたけれど、わたしはパンの味を感じなかった。
外で感じた怪しげな視線は気のせいだと思うのに頭の中から離れず、気になって仕方がなかったのだ。
そんなわたしの様子に気づいたお姉ちゃんが、「海代ちゃんどうしたの?」と聞いてきた。
「あ、うん。なんでもないよ……」
「そうなの? でも、パン好きなくせに美味しそうに食べていないね」
お姉ちゃんは首を傾げわたしの顔と食べ進んでいないウインナーパンを交互に見た。
わたしは、感じた視線のことを話そうか迷ったけれど、やめた。だって、気のせいだと思うから。
「お姉ちゃん、このパン美味しいね。ウインナーめちゃくちゃジューシーだよ」
わたしは、ウインナーパンをぱくぱくと食べ笑ってみせた。
お姉ちゃんは、「そっか」と言ってウインナーパンを食べ「うん、ジューシーだね」と言って笑った。
そのあと食べたチョココロネもチョコレートがたっぷり入っていてほっぺたが落っこちるほど美味しかった。
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