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第七章 吉田さんと動物達そして

4 気づかれた

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  桃谷さんは猫の絵本を手に持ち俯いている。そんな桃谷さんを吉田さんは心配そうに見つめている。

「大丈夫ですよ」

  吉田さんは、ぽつりと呟いた。

「……そうですか?」

  桃谷さんは猫の絵本に落としていたその目を吉田さんに向けた。

「ちょっと、真理子近づきすぎだよ」

  みどりちゃんが後ろからわたしの両肩をぎゅっと掴んだ。

「だって、気になるじゃない」

  わたしは振り向かずに答えた。

「元気と言ったらおかしいですが元気ですから大丈夫ですよ」

  吉田さんのその声は柔らかくてそれでいてしっかりと心に響くそんな声だった。

「……そうですか良かった」

  桃谷さんは安心したように微笑んだ。


  二人の会話の内容はよく分からないけれど吉田さんの優しい声で桃谷さんは落ち着きを取り戻したようだ。

「ゴーヤチャンプルー定食でも食べたら元気になれますよ」

「はい、ホッとしたらなんだかお腹が空いてきた~」

  桃谷さんは、そう言って大きく伸びをした。

「梅木さん、並木さん早くゴーヤチャンプルー定食を桃谷さんに作ってあげてくださいよ」

  吉田さんがくるりと振り返りわたし達を見た。その目は少し笑っているように見えた。

  バレていた……。

  わたし達が盗み聞きしていたことに吉田さんは気がついていたようだ。

  「真理子のせいだからね!」

「えっ、違うよ。みどりちゃんが気になるから様子を見に行こうって言ったんじゃない」

「そうかもしれないけど、真理子がにょきにょきと吉田さんと桃谷さんに近づいたんでしょう?」

「何でよ、みどりちゃん。わたしが止めるのも聞かずにさっさと歩き出したんでしょう?」

  みどりちゃんってば人のせいにするのだから困ったものだ。

「二人とも喧嘩しないでゴーヤチャンプルー定食を作ってくださいよ」

  吉田さんはクスクス笑っている。

「面白い二人ですね。大丈夫ですよ、ゆっくりゴーヤチャンプルー定食を作ってくださいね」

  桃谷さんは、頬に手を当てて笑っている。

「す、すみません。美味しいゴーヤチャンプルー定食をパパッと作りますので許してくださいね」

  みどりちゃんは、ぺこりと頭を下げた。

「すみません~わたしもゴーヤチャンプルー定食を作る手伝いをしますので許してくださいね」

  わたしも慌ててぺこりと頭を下げた。

  そして、わたし達は逃げるように調理場に戻った。
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