上 下
60 / 75
第六章 真理子

5 わたしは情けない 沖縄料理を作ろう

しおりを挟む
    調理場に行くとみどりちゃんが振り返り、「真理子!」と言ってわたしを睨んだ。

「ねえ、みどりちゃんはどうして怒っているのかな?」

  先程からみどりちゃんはぷりぷり怒っているのだから不思議でならない。

「……真理子がゴーヤを傷めたからゴーヤチャンプルーを作ることが出来ないんだよ。分かってないの?」

「……あっ」

   そうだった。わたしがゴーヤをダメにしたのだった。そのことをすっかり忘れていたではないか。

「あっ、じゃないわよ。真理子は困った子だよね。しっかりしてよね」

  みどりちゃんはふーっと溜め息をつきながら食材を冷蔵庫から取り出した。

「ごめんね。わたしも手伝うから許してよ」

「じゃあ、真理子はもやしでも洗って」

  みどりちゃんはもやしの袋をわたしに渡した。

「はーい」

  わたしはもやしの袋をえいっと破き流水でサーッと洗う。その隣でみどりちゃんが器用な手つきでニンジンを千切りにしている。

  もやしを洗うわたしと器用な手つきでニンジンを千切りにするみどりちゃん、なんだか差があるようで自分が情けなく思えてきた。

「真理子、洗いすぎじゃない?」

「あ、本当だ。ぼーっとしてた」

  みどりちゃんの野菜を切る姿を眺めていてもやしを洗い続けていたなんて嫌になる。

  みどりちゃんのように何でもできる女性になりたい。けれどわたしにはできない。

  
  
  込み上げてきそうになる涙をぐっと堪えながらみどりちゃんが作る豆腐チャンプルーを眺めていた。

  みどりちゃんは豆腐を焼きスパムを炒める。調味料などを加えそれから細く綺麗に千切りされたニンジンや玉ねぎを炒めている。わたしといえばただそんなみどりちゃんを見ているだけだ。

  何もできない自分が嫌になる。

  みどりちゃんは大好きな友達だけど一緒にいると自分の駄目なところが目立ち劣等感を感じる。何でもできるみどりちゃんが羨ましくなり、そして辛くなる。

「真理子、もやし」

「あ、うん」

  みどりちゃんは最後にわたしの洗ったもやしとニラを炒めた。とても良い香りがして食べたくなってきた。

「さあ、出来上がり」

  みどりちゃんはにっこりと笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………

ブラックベリィ
キャラ文芸
俺、神咲 和輝(かんざき かずき)は不幸のどん底に突き落とされました。 父親を失い、バイトもクビになって、早晩双子の妹、真奈と優奈を抱えてあわや路頭に………。そんな暗い未来陥る寸前に出会った少女の名は桜………。 そして、俺の新しいバイト先は決まったんだが………。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

マスクなしでも会いましょう

崎田毅駿
キャラ文芸
お店をやっていると、様々なタイプのお客さんが来る。最近になってよく利用してくれるようになった男性は、見た目とは裏腹にうっかり屋さんなのか、短期間で二度も忘れ物をしていった。今度は眼鏡。その縁にはなぜか女性と思われる名前が刻まれていて。

霊能師高校迷霊科~迷える霊を救う、たった一つの方法~

柚木ゆず
キャラ文芸
 迷霊、それは霊の一種。強い怨みを抱いて死んだ為に成仏できず霊となったが、心優しいが故に復讐を躊躇い悩む、可哀想な幽霊。そのまま放っておけば、暴霊(ぼうれい)となって暴れだしてしまう幽霊。  そんな霊を救える唯一の存在が、迷霊師。  これは迷霊師を目指す少年と少女の、人の醜さと優しさに満ちた物語――。

致死量の愛を飲みほして+

藤香いつき
キャラ文芸
終末世界。 世間から隔離された森の城館で、ひっそりと暮らす8人の青年たち。 記憶のない“あなた”は、彼らに拾われ—— ひとつの物語を終えたあとの、穏やか(?)な日常のお話。 【致死量の愛を飲みほして】その後のエピソード。 単体でも読めるよう調整いたしました。

護堂先生と神様のごはん 護堂教授の霊界食堂

栗槙ひので
キャラ文芸
考古学者の護堂友和は、気が付くと死んでいた。 彼には死んだ時の記憶がなく、死神のリストにも名前が無かった。予定外に早く死んでしまった友和は、未だ修行が足りていないと、閻魔大王から特命を授かる。 それは、霊界で働く者達の食堂メニューを考える事と、自身の死の真相を探る事。活動しやすいように若返らせて貰う筈が、どういう訳か中学生の姿にまで戻ってしまう。 自分は何故死んだのか、神々を満足させる料理とはどんなものなのか。 食いしん坊の神様、幽霊の料理人、幽体離脱癖のある警察官に、御使の天狐、迷子の妖怪少年や河童まで現れて……風変わりな神や妖怪達と織りなす、霊界ファンタジー。 「護堂先生と神様のごはん」もう一つの物語。 2019.12.2 現代ファンタジー日別ランキング一位獲得

もしも北欧神話のワルキューレが、男子高校生の担任の先生になったら。

歩く、歩く。
キャラ文芸
神話の神々と共存している現代日本。 高校に進学した室井浩二の担任教師となったのは、北欧神話における伝説の存在、ワルキューレだった。 生徒からばるきりーさんと呼ばれる彼女は神話的非日常を起こしまくり、浩二を大騒動に巻き込んでいた。 そんな中、浩二に邪神の手が伸びてきて、オーディンの愛槍グングニルにまつわる事件が起こり始める。 幾度も命の危機に瀕した彼を救う中で、ばるきりーさんは教師の使命に目覚め、最高の教師を目指すようになる。 ワルキューレとして、なにより浩二の教師として。必ず彼を守ってみせる! これは新米教師ばるきりーさんの、神話的教師物語。

神の居る島〜逃げた女子大生は見えないものを信じない〜

(旧32)光延ミトジ
キャラ文芸
月島一風(つきしまいちか)、ニ十歳、女子大生。 一か月ほど前から彼女のバイト先である喫茶店に、目を惹く男が足を運んでくるようになった。四十代半ばほどだと思われる彼は、大人の男性が読むファッション雑誌の“イケオジ”特集から抜け出してきたような風貌だ。そんな彼を意識しつつあった、ある日……。 「一風ちゃん、運命って信じる?」 彼はそう言って急激に距離をつめてきた。 男の名前は神々廻慈郎(ししばじろう)。彼は何故か、一風が捨てたはずの過去を知っていた。 「君は神の居る島で生まれ育ったんだろう?」 彼女の故郷、環音螺島(かんねらじま)、別名――神の居る島。 島民は、神を崇めている。怪異を恐れている。呪いを信じている。あやかしと共に在ると謳っている。島に住む人間は、目に見えない、フィクションのような世界に生きていた。 なんて不気味なのだろう。そんな島に生まれ、十五年も生きていたことが、一風はおぞましくて仕方がない。馬鹿げた祭事も、小学校で覚えさせられた祝詞も、環音螺島で身についた全てのものが、気持ち悪かった。 だから彼女は、過去を捨てて島を出た。そんな一風に、『探偵』を名乗った神々廻がある取引を持ち掛ける。 「閉鎖的な島に足を踏み入れるには、中の人間に招き入れてもらうのが一番なんだよ。僕をつれて行ってくれない? 渋くて格好いい、年上の婚約者として」 断ろうとした一風だが、続いた言葉に固まる。 「一緒に行ってくれるなら、君のお父さんの死の真相、教えてあげるよ」 ――二十歳の夏、月島一風は神の居る島に戻ることにした。 (第6回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった方、ありがとうございました!)

処理中です...