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第六章 真理子

3 真理子とじゃんけん

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「お買い上げありがとうございます。ではではわたし真理子とじゃんけんぽんですよ」

  わたしは満面の真理子スマイルを貼り付けてじゃんけんをした。

  けれどわたしは五名のお客さんとじゃんけんをした結果は見事に負けてしまった。なんてこと何だろうと肩を落とす。

「く、悔しいよ~これはかなり悔しいよ~」

  わたしは地団駄を踏んだ。その都度みどりちゃんがお客さんにこの子が煩くてすみませんと言って謝っている。

  でもね、本当は少し嬉しいのだ。だって今まで閑古鳥が鳴いていた店内がこんなにも賑わっているのだから。嬉しくてそれはもう嬉しくて堪らないのだ。

  ふふっと笑顔がこぼれる。

「あ、お姉さんの顔めちゃくちゃ面白い~笑える~」

  可愛いはずのわたしの顔を指差し笑う野球帽を被った少年。しかもわたしはこの少年にもじゃんけん対決で負けてしまったのだ。なんて憎たらしい少年なのだろうか。

「うふふ。お姉さんの顔がそんなに面白いのかしら……」

  わたしは、笑顔を貼り付けて我慢をした。せっかく来てくれたお客さんを逃がすわけにはいかないのだから。

  
  
  気がつくと時計の針が十二時を指していた。道理でお腹が空くわけだ。

「みどりちゃん、お腹が空いたね。ご飯の時間だよ。今日のお昼は何を食べる?」

「しーっ、ちょっと真理子、お客さんが来たよ。カフェメニューもあるから頼んでくれるかもしれないよ」

  みどりちゃんの声に店の入口に目をやると会社の制服を着たOLさんらしい女性が店内に入って来た。

「いらっしゃいませ」

  女性は書棚の前に立ち止まりぺらぺらと本のページを捲っている。それから女性はこちらに向かって歩いてきた。

「この本をください」

  レジカウンターに座っているわたしに女性は本を差し出した。

「ありがとうございます。それではわたしとじゃんけんぽんですよ~」

「はっ?  じゃんけんぽんって何ですか?」

  女性はキョトンとした表情でわたしの顔を見た。

「あ、すみません。今、じゃんけんキャンペーン中でしてわたしとじゃんけんをして見事に勝利すると本が半額になるんですよ」

  わたしは、満面の笑顔を浮かべて言った。

「へぇーそうなんですか?  それは楽しそうですね」

  女性の表情はぱっと輝いた。

「ではでは、じゃんけんぽん対決ですよ」

「最初はグーじゃんけんぽーん」

    わたしとお客さんは同時にグーを出した。そして、いよいよ本番のじゃんけんをした。

「じゃんけんぽーん!」

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